ホップエキスに育毛効果はあるのか?

ホップエキスで髪は生えるか?

近年育毛剤や育毛シャンプーの成分として散見されるようになったホップエキス。ポリフェノールやらエストラジオールやらが効果的とされますが、同成分で髪の毛が生えることはあるのか?

…いや、生えないよ。

糖尿病や体脂肪の低減、アルツハイマー型認知症への効果など、様々な分野で注目されている印象があるホップエキス。それだけに男性型脱毛症(AGA)に関しても効果を発揮しそうだが、これに関するデータは極めて少なく、発毛効果に関しては「効果なし」と言わざるを得ない。

しかし、製薬会社が育毛効果を示すデータを持っているなど、他の育毛成分に比べるとずいぶん信頼できそうな雰囲気があります。実際のところ髪の毛に対するホップエキスの効果ってどうなのよ?

ホップエキスの育毛に関するデータは?

育毛関連サイトを見てみると、ホップエキスを配合している育毛剤を紹介する際、「エストロゲンの1種であるエストラジオールに近い働きをする」「薄毛の原因であるジヒドロテストステロン(DHT)の生成を抑える」といった文言をよく目にします。

胡散臭い。そして嘘くさい。

育毛関連の成分はいかにも髪の毛が生えそうな文言が踊っていますが、そのほとんどはまともな根拠がないものばかり。ホップエキスもその類なんだろうというのが第一印象でした。

しかし、あまりにも多くのサイトで同様の記述がみられるため、ホップエキスが育毛や発毛に効果がある根拠がどこかに存在するのだろうと探してみた結果、いくつかの研究やデータが確認されましたので紹介していきましょう。

三省製薬のホップエキスの研究データ

まずはデルメッドというブランドからホップエキスなどを配合するヘアエッセンスを製造・販売している三省製薬が自社データとしてホップエキスの育毛効果を確認したというものを見てみましょう。

その効果は以下の3つ。

  • 育毛遺伝子発現促進作用
  • 毛乳頭細胞増殖作用
  • 5α-リダクターゼ活性抑制作用

これだけ見ると「すごい効きそう」という印象を抱きますね。その詳細についてもある程度公表されています。

育毛遺伝子発現促進作用

欧州ホップエキス0.2%をヒト毛乳頭細胞に添加した結果、育毛促進遺伝子とされるHGFやIGF-1、VEGFなどが増えたとされます。

ホップエキスで育毛遺伝子発現促進?
出典:三省製薬


こう見ると非常に優秀に見えますが、これはヒト毛乳頭細胞を培養して直接添加したもの。実際の人間の頭皮に塗ったものではないため信頼性は決して高くありません。

毛乳頭細胞増殖作用

次にホップエキスの毛乳頭細胞増殖作用についても見ていきます。

上記と同じく培養したヒト毛乳頭細胞にミノキシジル0.01%とホップエキス0.1%、0.2%をそれぞれ添加した結果がこちら。

ホップエキスで毛乳頭細胞が増える?
出典:三省製薬


こちらはミノキシジルとの比較となり、0.2%のホップエキスを添加した場合ミノキシジルより良好な結果が得られているようです。

…というかミノキシジル0.01%って、いくらなんでも薄すぎやしないか?この場合せめて0.1%くらいじゃないと比較対象にならない気がするんですけどね。

しかも培養した細胞に添加…これでは発毛根拠にはならない。

5αリダクターゼ活性抑制作用

最後は男性型脱毛症(AGA)の改善にとって最も重要になるであろう、ホップエキスの5αリダクターゼ抑制作用について。

この試験では何も添加していない状態を100とし、欧州ホップエキスを3%、5%、8%の3つ濃度で添加し5αリダクターゼの活性度合いを検証しています。

ホップエキスの5αリダクターゼ抑制効果
出典:三省製薬


8%の濃度のホップエキスを使用することでなんと5αリダクターゼを約82%抑制したというのです。そう聞くとすごい印象を受けますよね。

しかしこの試験は「in vitro」の注意書きが。in vitro…つまり試験管内など人為的に作られた環境でのデータということになります。

三省製薬が行った一連の試験においてホップエキスは優秀な成績を収めているように感じますが、培養細胞などを用いた試験結果の信頼性は決して高くありません。

なぜなら、様々な生体反応や生理現象が絡み合う人体とは明らかに異なる状況であるうえ、ホップエキスを頭皮に塗布した場合、毛乳頭細胞にまで浸透できるのか?という問題も付きまとうから。

三省製薬は前述のデルメッドヘアエッセンスに配合されている6-ベンジルアミノプリンを厚生労働省に有効成分として認可させたとしているが、そちらも育毛根拠の多くは培養細胞や取り出した毛包を用いてのもの。

現状においてホップエキスが有効成分として認可されていないことを考えると、発毛剤にとって重要となる「科学的根拠」とは程遠いレベルと推測されます。

ホップエキスの上記3つの作用について、仮に培養細胞や毛包を使って得たデータであれば、環境が大きく異なる人間の頭皮に当てはめるのはあまりにも早計。

そんなこと言ったら培養細胞で試験した結果「ミノキシジルの3倍の効果」が確認されたとするキャピキシルは最強の発毛剤ということになるわ。

現実は発毛効果なしの化粧品成分ですけどね。

三省製薬が行ったホップエキスの試験データは発毛の可能性を示すものではありますが、データの信頼性としては最低レベルのもの。

この程度の結果を残している育毛剤成分は腐るほど存在し、そしてそれらはことごとく発毛効果がない現実を見るに、ホップエキスに過度な期待を抱くべきではないことが分かるはず。

ノエビアのホップエキスデータ

三省製薬以外にもホップエキスの育毛効果を検証した企業があります。それは化粧品メーカーとして有名なノエビア。

ノエビアが行った試験は培養細胞を用いたものからヒトへの使用まで複数存在しますが、注目したいのはマウスやヒトに対するもの。なぜならこのレベルの試験は培養した毛乳頭細胞を用いた三省製薬の試験より信憑性が高いからです。

ではマウスとヒトに使用した2件の試験について見てみましょう。

マウスに対するホップエキスの試験

ホップエキスの有効性をマウスを使って調べた試験は、背中の毛をバリカンで刈った上で徐毛剤を用い毛を完全に除去。その上でエタノール塗布群、ミノキシジル1%塗布群、ホップエキス1%塗布群それぞれに10匹を割り当て行われました。

それぞれを1日1回20日間塗布し、その後生えた毛を抜き取って総重量を測定し、エタノール塗布群と比較し有効性を調べるというもの。

結果は以下の通り。

毛の総重量(mg)
エタノール塗布群 34.0 ± 5.0
1%ミノキシジル塗布群 60.8 ± 14.7
1%ホップエキス塗布群 51.5 ± 15.5

このように、ホップエキスはミノキシジルほどではないにしろエタノール塗布群と比べ毛の量が有意に増加したとあります。

ただし、マウスの毛を剃って再び生えてきた毛の重さを量っていることから、この試験は毛の成長速度を検証したものに過ぎない点に注意。我々ハゲが求める効果はそれじゃないんですけどね。

ヒトの成長速度に与える影響

マウスに行った試験と似たことをヒトに対しても検証しています。

25~38歳の男性11名の頭部に直径8mmの刈毛部を作ったうえでその部分の毛の成長速度を計測。その後1%のホップエキスを刈毛部に2ヶ月間塗布し成長速度を再計測するというもの。

結果は11名中8名において髪の毛の成長速度が増加したとあります。詳細なデータは下図の通り。

ホップエキスの育毛効果
出典:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sccj1979/29/4/29_4_411/_pdf


11名中8名が改善したと聞くといかにも良いような印象を受けますが、詳細なデータを見ると改善しなかった3名の減少幅はかなり大きく、全体の平均で見ると必ずしも有意な差といえるものではないことが分かります。

また、被験者の男性は薄毛でないうえに剃った部位も分からない。男性の薄毛の9割以上を占める男性型脱毛症(AGA)を対象にしていない時点で現実には即していないのではないでしょうか。

しかもこの試験も髪の毛の成長速度を計測したもの。つまり前述のマウスの試験同様ハゲてしまった部分からの発毛を検証したものではないことになります。

なんだろう、この的外れ感…

ヒトへの使用試験

最後に、最も注目すべき人への使用試験の結果を見てみましょう。

上記の髪の毛を剃って行われた試験と違い、この試験では27~54歳までのAGAの男性54名を対象としており、試用期間も6ヶ月。つまり一般的な育毛剤や発毛剤の使用状況を想定したものということになります。

結果はというと、6ヶ月間の試験が終わった時点で抜け毛が減ったと答えた被験者は45%、髪の毛の成長が速くなたと答えた被験者は32%、ホップエキスを配合したトニックに育毛養毛効果が認められたと答えた被験者は50%という結果に。

…ハッキリ言おう、微妙な結果だと。

この結果のカギは被験者の感想に委ねられているという点。こういった感覚的なものになるとプラシーボ効果やノセボ効果などの思い込みにより効果や副作用が顕在化することが多いもの。

しかも良化したと答えた人間は3~5割程度。育毛効果があるらしいトニックだと分かった上で使用してなお5~7割の人は「変わらない」「効果がなかった」と答えているのです。

また、何度も言うようにこの調査は抜け毛予防や髪の毛の成長促進など育毛効果を調べたもの。比較対象にプラセボ(偽薬)を用いてなお9割以上の人の髪の毛が増えるミノキシジルなどの発毛剤と比べるとAGAに効く根拠はあまりにも乏しい。

ホップエキスは一般的な育毛成分に比べればある程度しっかりと効果の検証が行われているものの、ハゲを改善させるほどの効果は期待できないと見るのが自然ではないでしょうか。

女性ホルモンと似た働きで育毛という謎理論

ホップエキスについて取り上げているサイトを見ると決まって「女性ホルモンに似た働きによって育毛する」と書いている。確かにホップには女性ホルモンであるエストロゲンに似た働きをする成分が入っています。

…で?

エストロゲン様物質として知られるイソフラボンという成分がある。大豆に多く含まれているあれ。エストロゲンに近い働きをするため、更年期の女性などに対し積極的な摂取を呼び掛けています。

そしてこのエストロゲンは男性型脱毛症(AGA)の原因物質であるジヒドロテストステロン(DHT)の生成を抑制する作用があり、これに近い働きをするイソフラボンを摂取することでDHTの濃度が低下したというデータも存在する。

しかしこれら研究は同じくDHTを原因とする前立腺肥大症や、前立腺がんを対象にしたものであり、AGAに対しての効果を示すものは存在しません。

また、前立腺の疾病に関するデータも有効性が認められたものもあれば認められなかったものもあります。実際、日本泌尿器科学会が策定する前立腺肥大症診療ガイドラインでは「イソフラボンの摂取が前立腺疾患の予防に有益などとされるが、効果は不明確でRCT(ランダム化比較試験)もない」と結論付けています。

前置きが長くなってしまいましたが、100歩譲ってイソフラボンにAGA改善効果があるとして、それはあくまでも“摂取”での話。イソフラボンを含むホップエキスを頭皮に塗布したからどうだというのだろう?

イソフラボンよりDHT抑制効果がはるかに高い発毛成分フィナステリドやデュタステリドを頭皮に塗って髪が生えるかい?

ミノキシジルだって外用薬より内服薬の方が発毛効果が高いのは常識。副作用リスクなどからAGAに対するミノキシジルタブレットの臨床試験は行われておらず、発毛剤として認めている国は存在しませんけどね。

ホップエキスに女性ホルモン様成分が入っているからといって、それを頭皮に塗布してAGAに効果を示すなんてことは考えられません。

糖尿病や肥満などに対し注目されている事実

ホップエキスが薄毛に対して効果があるとするデータを見つけることができない一方で、血糖値や血圧の上昇を抑制する作用や肥満抑制作用など複数の研究データをビールでお馴染みのキリンホールディングスが公表しています。

研究しているのがキリンというあたり、健康を害すと言われて久しいビールの地位向上にむけポジティブなイメージを作り出そうとしている感は拭えないが。

ただ、ホップエキスがアルツハイマー病の発症を抑制する効果に関しては京都大学の研究グループが取り組み成功させるなど、医療の分野で注目されている成分であることは間違いありません。

しかしそれが薄毛改善に役立つかどうかはまた別の話。

ホップエキスによる健康へのデータが大企業や大学など信頼性の高い団体から公表される一方、育毛に関しての情報は金目当ての低レベルな育毛関連サイトのものばかり。しかも他サイトの情報を鵜呑みにし適当にリライトして掲載しているだけだから信憑性は皆無。

せめて有効性を確認したとする三省製薬やノエビアがAGAへの効果に対し信頼に足るデータを公表するなり、厚生労働省に有効成分として認められるなりすれば話も変わってくるのだが。

ちなみに、血圧や血糖値上昇を抑制する効果やアルツハイマー病への効果を示した研究はすべて人間、もしくはマウスに投与・摂取したもの。育毛剤のような外用剤で客観的な効果を検証したものは見当たりません。

ホップエキスに発毛効果なし

あまりにもデータが不足しているホップエキスの育毛・発毛効果。現段階においてこれで毛が生えるなど口が裂けてもいえない。

三省製薬やノエビアが有効性を確認したとしているが、それらのデータは培養細胞を用いた信頼性の低いものであったり、髪の毛の成長速度を調べたものだったり…私たちが求める発毛効果とは程遠いもの。

古今東西、ちょっとした研究の結果薄毛に効果があったとする成分は星の数ほど存在しますが、大規模かつ厳格、客観的な臨床試験を行いエビデンス(科学的根拠)が認められたものなどごくわずか。

日本においてはフィナステリドとデュタステリド、ミノキシジルに加え、2017年に一定の発毛効果が認められたアデノシンくらい。それ以外は有効成分といえど「根拠に乏しい」「発毛効果なし」と結論付けられているものばかり。

とはいえ、髪の毛の成長を早める効果に関しては弱いながらも根拠がありますので、それが目的の人であればホップエキスの入った育毛剤を使ってみてもいいかもしれません。

ただし、有効性が認められたとするホップエキスの濃度は1%。一方、ホップエキスを配合している育毛剤でその含有量を表記しているものはひとつとして存在しません。育毛剤の9割は水とエタノールということを考えれば、ホップエキスを1%も配合している商品は皆無でしょう。

ホップエキスがAGA改善に効果があるとは一切認められていないこと、配合している育毛剤の含有量が分からないことも勘案し、冷静な判断をするように心がけて欲しいと感じています。

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