カフェインで発毛? 臨床試験で一定の効果も
かつては体に悪いなどネガティブな見方が多かったカフェイン。しかし近年は認知症やガンなどの予防に役立つという研究結果が相次ぐなど注目を集めており、それは薄毛の予防や改善にも波及しています。
以前からコーヒーやカフェインに関しては薄毛を誘発するのではないかという声が多かったものの、近年はその見方も変わりつつあるように感じています。
実際、多くの育毛サイトでカフェインの有用性が書かれだしています。しかしその内容は目を覆いたくなるような的外れな意見も多い。
巷に溢れる薄毛に対する嘘くさいカフェインの効果を否定しつつも、データなどに基づき本当に効果があるのかどうか検証してみましょう。
カフェインと薄毛改善の嘘
カフェインが男性型脱毛症(AGA)に効果があるのかどうかのエビデンス(科学的根拠)を検証する前に、まずは数多ある育毛サイトで語られる嘘から暴いておきます。
カフェインで血流が改善し育毛に繋がるという嘘
カフェインを摂取すると血流が改善し、頭皮に酸素や栄養が行き渡り薄毛の予防や改善に繋がる…こんな嘘が巷に溢れています。もうツッコミどころ満載。
カフェインが血流に及ぼす影響については「血行改善に繋がる」「血管が収縮する」という意見が対立しているように感じます。これはどちらも正しい。
カフェインを摂取して収縮するのは脳血管とされています。そのため頭痛の緩和に効果が期待できます。また脳の神経細胞を刺激するため、覚醒作用や興奮をもたらし集中力が上がるとも。
一方、末梢の血管を拡張する作用があり、これが血行を促進させると言われる所以になっています。
ただね、血行を促進したからといって髪の毛は生えない。なんでこんなバカな理論がまかり通っているのか不思議でしょうがない。
仮に血行を促進させれば薄毛が改善するというのであれば、血圧を下げる降圧剤を飲んでいる人間はみんなハゲが改善することになる。しかし降圧剤で発毛するなんて根拠は一切ない。そんなデータも研究もない。
例外的に降圧剤であるミノキシジルで発毛するが、それは何らかのメカニズムにより毛包や毛母細胞を刺激し分裂や増殖を促すから。ミノキシジル以外の降圧剤で発毛しないことからも血行促進で髪の毛は生えない。
血行と薄毛を関連付けたデータなど一切存在しないのに、いまだにこんな都市伝説が生きているあたり、育毛業界の闇を感じるわ。
カフェインの利尿作用でDHTを排出?
最近やたらと目にするのがこれ。カフェインが持つ利尿作用によって積極的に尿を出すと、AGAの原因であるジヒドロテストステロン(DHT)が排出され薄毛が改善するという都市伝説。
多くの育毛サイトがさも当然のごとく同じことを書いていますが、笑っちゃうのはどこもそのソース(情報元)を示していないこと。
私も必死に探してみたのだが、どう探してもそれに対する根拠は出てこない。
あえて言うならごく一部のAGAクリニックがソースを示さずに「尿でDHTが排出される」と書いているくらい。AGAクリニックって医師が運営しているものの、発毛根拠のない高額治療を平然と提供していたりするアレ。
「生活習慣がAGAに影響します」なんて育毛サイトレベルの根拠のない情報を提供する低レベルな医師が多いAGAクリニックの中でも、ごく一部の医師が尿でDHTが排出され薄毛改善が期待できると言っている。ああそうですか。
基本的な尿の成分構成は以下のようになっています。
水分 | 96.0% | クレアチニン | 0.156% |
---|---|---|---|
尿素 | 1.742% | 尿酸 | 0.129% |
食塩 | 1.538% | アミノ酸 | 0.073 |
硫化物 | 0.355% | アンモニア | 0.073% |
尿の中にはミネラルの摂取状況に応じてカリウムやカルシウム、マグネシウムといったものが排出され、ホルモンに関してもごくごく微量ながら尿に含まれているという見方も。
ただ、それがDHTのみということは100%考えられません。
個人が片手間にやっているような知識の浅い育毛サイトではDHTを「悪玉男性ホルモン」なんて呼んでいたりする。そしてその“悪玉”は有害物質なので尿として排出されるのが当然という考えなのだろうか?
DHTは前立腺肥大症やAGAの原因物質であるのは疑いようがないものの、テストステロンを遥かに上回る強い作用がある男性ホルモンであり、筋肉の成長・維持や性機能、脳神経の新生などにも関わる重要なホルモンです。
加齢とともにテストステロンが減るため、それを補うためにDHTが増えるという見方も。それがAGAの発症を引き起こしているものの、体の機能としては男性らしさを維持するために必要だからDHTを増やしているわけです。
体にとって大事なDHTだけが尿で排出されることは考えられず、ホルモンが尿で排出されるというのであれば、髪の毛にとって必要なテストステロンや数少ない女性ホルモンも排出されると考えるのが自然。
そもそも、尿を多く出せば育毛が期待できるという根拠もないし、矛盾も感じる。
異常な頻尿で多量の尿や汗を排出する肥満や糖尿病の人は明らかにハゲの割合が多いが、それはどう説明するんだ?
カフェインがテストステロンを増やす?
ネット上に溢れるカフェインの育毛効果は信用に値しないと前置きした上で、カフェインが髪の毛に好影響をもたらすかもしれない研究結果があるのも事実です。
ニュージーランドの研究所が24人のブロラグビー選手を対象に行った調査では、800mgのカフェインを摂取した群で唾液中のテストステロンは21%増えたという研究結果が出ています。
テストステロンは5αリダクターゼ(5α還元酵素)と結びつきAGAの原因であるDHTを作りだしますが、テストステロン自体は男性らしい太く丈夫な髪の毛を作るとされています。
加齢によってテストステロンが減ると、それを補うためにDHTが作られるという説が本当であれば、テストステロンを増やすことでDHTの生成を抑制できる可能性も考えられます。
ただ、この研究結果には“オチ”もあります。カフェインの摂取によってテストステロンが増えたのは間違いないものの、同時にコルチゾールも増加しています。
コルチゾールはテストステロンの働きを抑制するホルモンで、筋肉を分解するとも。増加したテストステロンは同じく増加したコルチゾールによって相殺される可能性があると締めくくられているのです。
また、この研究で最も効果が出た800mgのカフェインはコーヒーに換算すると約1.3リットル分に相当します。一般的に健康に良いとされるコーヒーの摂取量はカップ3~4杯(カフェイン200~300mg程度)とされていることを考えると、摂り過ぎ感は否めない。
カフェインがAGAに効果があった研究も
AGAに対するカフェインの効果を検証した試験も複数行われています。
ドイツの研究では、採取した毛包にテストステロンを使用した結果成長が抑制されたのに対し、カフェインを同時に使用した際は成長の抑制効果が打ち消され、カフェインのみを使用したものでは毛包を刺激し成長させたというのです。
カフェインが「脱毛因子」とも呼ばれるTGF-β2を減少させる一方、成長に欠かせないインスリン様成長因子(IGF-1)の発現を強化するとも。
また、イタリアの研究所ではカフェインを配合したシャンプーを女性に使用した結果6ヶ月間使用した結果、髪の毛の引っ張り強度が上がったとも。
これに関しては既存の髪の毛が強化されたのか、それとも新たに生えた髪の毛にハリやコシが生まれたの判断できないものの、髪の毛に良い影響が出た研究結果であることは間違いありません。
【追記】ミノキシジルとの比較試験で効果を実証?
この記事を書いた段階では見当たらなかったカフェインの発毛効果を検証した臨床試験ですが、2017年にミノキシジルとの比較試験の結果が発表されていました。
AGAの男性210名を2群に分け、一方の群にはミノキシジル5%溶液を、もう片方の群にはカフェイン0.2%溶液を6カ月間投与するというもの。
結果としては、ミノキシジルを使用した群では11.68%の改善を示したのに対し、カフェインを使用した群の改善率は10.59%と肉薄。この結果によりAGAに対しカフェイン溶液はミノキシジル溶液と同等の効果があると結論付けられています。
210名という比較的大規模な試験であることから一定のエビデンス(科学的根拠)が得られたという見方もできるかもしれません。
しかしこの試験は「非盲検」…どの被験者がどちらの薬剤を使用したか、被験者をはじめ医師、スタッフなどが事前に知らされる形で行われています。当然ながら先入観やバイアスが介入する可能性も。
例えば医薬品としての承認を得るために行われる治験レベルの試験になると、被験者や医師、スタッフなどはどの被験者にどの薬が使用されたか知らされない状態で行われます。いわゆる「二重盲検試験」というものですね。
カフェインとミノキシジルを比較したこの試験の結果はAGA治療の選択肢を広げる可能性を示唆しているものの、信頼性の点において疑問を抱かざるを得ないのも確か。これだけの規模の試験であれば盲検法で行って欲しかった。
とはいえ、この試験結果によりカフェインに一定の発毛効果がある可能性が高まったのも確か。カフェインが主成分では心もとないものの、ミノキシジルの補助的な位置づけで配合されるならある程度は期待できるかもしれません。
カフェインと薄毛の研究に否定的な見方も
上記のドイツの研究結果やミノキシジルとの比較試験の結果を見るに、カフェインはAGAに対し効果を発揮するような印象を受けるのではないでしょうか?
しかし、前者の研究は毛包を採取して行われています。実際の人間の頭皮とはあまりにも環境が違うため、この研究結果を鵜呑みにすることはできません。そもそもデータ自体も少なすぎる。
培養した毛包や細胞を用いた結果ミノキシジルを上回る効果を発揮したと開発メーカーが発表しているキャピキシルやリデンシルが実際はクソの役にも立たないことからも、こういった研究を鵜呑みにできないことを物語っています。
採取した毛包を用いたものなど、試験で高い効果を示したとされる成分というのはフィーバーフューやM-034、ピディオキシジルやケトコナゾールなど枚挙にいとまがないものの、実際のAGAに対しては総じて役に立たない。
それは世界中でいまだにフィナステリドとミノキシジル(日本・韓国ではデュタステリドも)しか発毛効果が認められていないことを考えても明らか。
カフェインでDHTが増えたという試験も
ブラジルのサンパウロ州立大学の研究では、コーヒーなどによる慢性的なカフェインの摂取でテストステロンおよびジヒドロテストステロン(DHT)の濃度を増加させたとあります。
この研究は前立腺肥大症への影響についてのものですが、DHTが増えるということはAGAのリスクを高めることになると見ていいでしょう。
発毛剤として認められているフィナステリドやデュタステリドは本来前立腺肥大症の治療薬であることからも分かる通り、DHTの増加により前立腺肥大症のリスクが高まることは同時にAGAのリスクも増加していると見るべき。
カフェインにはAGAを改善させる効果がある可能性が示される一方、リスクとしての可能性も示唆されているのです。
カフェインはAGAに効果なしか
前述した毛包にテストステロンとカフェインを使用した試験では、テストステロンのみで毛包の成長が抑制されたとあります。しかし一般的にテストステロンは薄毛の原因ではなく矛盾も感じます。
こういった試験というの結果に大きな“揺らぎ”があるのはままあること。一方では黒だったものがもう一方では白になることもあるのです。
確かなことは、この程度の研究結果ではAGAに対するカフェインの効果の有無は分からないということ。
こんなレベルの研究結果をいちいち信用するのであれば、以前言われていたように「コーヒーやカフェインは薄毛の原因」という説も信じなければならなくなる。
ひと昔前まで「悪い」と言われていたものが色々な研究の結果「良いかもしれない」に変わった。しかしそれが再び「悪い」に立ち戻る可能性もあります。結局は厳密な臨床試験が行われ効果や副作用が確定しない限りAGAに対するカフェインの効果など分からないのです。
カフェインの利尿作用でDHTが排出されるとか血行促進で髪が生えるといった都市伝説レベルのくだらない噂を信じてコーヒーをがぶがぶ飲んでいる間にもAGAは確実に進行し、どんどん治療が難しくなっていきます。
気休め程度に積極的なカフェイン摂取を行うというのであれば止めはしませんが、ハゲを治したいならフィナステリドやミノキシジルといった発毛剤を使う以外に有効な手立てはありません。
それだけは忘れないで下さい。
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