塩化カルプロニウムに発毛効果を期待するな

カルプロニウム塩化物の発毛効果

私たちが悩まされている男性型脱毛症(AGA)をはじめ、円形脱毛症やびまん性脱毛症、粃糠性脱毛症など多くの薄毛に効果を示すとされる塩化カルプロニウム(カルプロニウム塩化物)。しかし過剰な期待は禁物です。

この塩化カルプロニウム、医薬品として50年以上の歴史があり、脱毛症の治療薬としての実績は十分。現在も医療機関において処方されていることからも、一定の評価を得ているのは間違いないでしょう。

しかし、それだけ長い歴史がありながらその効果にエビデンス(科学的根拠)と呼べるものは乏しく、また少ない根拠も優秀なデータとは言い難い現実があります。

フロジン液やアロビックス外用液、カロヤンに代表される塩化カルプロニウム外用薬に発毛効果を期待するには酷。そう言えるだけの根拠を挙げていきましょう。

塩化カルプロニウムの作用

各種脱毛症の治療薬として医療現場において50年以上使用されている実績があるカルプロニウム塩化物(塩化カルプロニウム)。その作用とはどういったものなのでしょうか?

塩化カルプロニウムの作用は一言で言ってしまえば血行促進

頭皮の血行を促進させることで髪の毛の基となる毛根に十分な酸素や栄養が行き渡らせ発毛促進につなげるのがこの医薬品の目的なのです。

実施に塩化カルプロニウムを用いた本邦最初の外用薬であるフロジン液の添付文書の薬効薬理にはこう書かれています。

本剤は,カルプロニウム塩化物水和物の局所血管拡張作用を円形脱毛症をはじめ各種脱毛症における脱毛防止,発毛促進および乾性脂漏,尋常性白斑の治療に応用した局所用薬剤である。

塩化カルプロニウムが持つ高い血管拡張作用によって機能低下状態にある毛嚢を刺激し発毛を促進させるのです。

血行促進作用による発毛は都市伝説

血行促進で髪は生えない

遥か昔から頭皮の血行を促進させ毛根に栄養や酸素を供給すれば髪の毛が生えると信じられてきました。昔のハゲおやじがブラシで頭皮をトントンと叩いていたのはそういった背景があるから。頭皮マッサージの存在も同じ理由ですね。

脱毛症の治療薬である塩化カルプロニウムに結構促進効果があったからこういった都市伝説が広まったのか、それともこういった都市伝説があったからカルプロニウムが使用されることになったのかは定かではありません。

ただ、その“血行促進神話”は現在も脈々と受け継がれており、いまだに「頭皮の血行を良くしましょう」だの「頭皮マッサージが―」と述べる自称専門家が後を絶ちません。オカルト臭がハンパない。

また、外用薬としては唯一発毛効果が認められているミノキシジルが血管拡張剤であることも、この都市伝説に真実味を持たせているのかもしれません。

血行促進で髪が生えるという根拠はない

数十年前から今日に至るまで信じられている血行促進による発毛促進。

そもそも「発毛」と「発毛促進・育毛」は似て非なるもので、塩化カルプロニウムに期待される発毛促進効果は、今生えている髪の毛の成長を促進させたり、抜け毛を予防したりするためのもの。

プロペシアの主成分であるフィナステリドや、発毛効果があるミノキシジルのように髪の毛を増やす・生やすものではないのです。

強い血行促進作用がある塩化カルプロニウムによって一定の発毛促進は望めるかもしれません。しかし、頭皮マッサージや育毛剤に使われている程度の成分ではそういった効果すらほとんど望めないのが実情。

実際、血行促進によって発毛促進や発毛が認められたという科学的根拠はほとんど存在しません。

一方で私たちハゲが望むのは、髪の毛を生やし若い頃のようなフサフサの髪の毛を取り戻すことではないでしょうか?であれば血行促進など何の意味も持ちません。

なぜなら、男性の薄毛の9割以上を占める男性型脱毛症(AGA)は、遺伝による男性ホルモンの生成や感受性によって引き起こされるから。そこに血行が入り込む余地はないのです。

カルプロニウムに対する専門家の評価は微妙

外用薬として唯一発毛効果が認められているミノキシジルは基本的に医療機関で処方されることはありません。一部AGAクリニックなどでは海外製やオリジナルのミノキシジル外用薬を処方することもありますが、それは日本で認可されたものではありません。

つまり、塩化カルプロニウムを主成分としたフロジン液やアロビックス外用液は医療機関において唯一処方される外用のAGA治療薬という見方もできるでしょう。

しかしこの評価が微妙なんです。

AGAに対する塩化カルプロニウムの評価

2017年に策定された男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインでの塩化カルプロニウム(カルプロニウム塩化物)の評価は「C1:行ってもよい」となっています。

発毛剤として認可されるプロペシアの主成分フィナステリドやザガーロの主成分デュタステリド、そしてミノキシジルが最高のA評価。また今回からアデノシンがB評価に格上げされたことを考えると、塩化カルプロニウムの評価は心もとない。

長年にわたって医薬品として使われているにもかかわらずC1の評価である一番の理由は有効性を示す確かなデータが存在しないから。

いくつかの試験は行われているものの、フィナステリドやミノキシジルのような大規模かつ客観的な臨床試験は一切行われておらず、むしろ科学的根拠のない薬を長年にわたって処方し続けていることのほうが不思議なくらい。

同ガイドラインにおいてC1評価とする根拠のひとつに「長年に渡り保険適応となっており、生薬との合剤を含む我が国での膨大な診療実績を考慮」とある。

何それ?既得権益的な?

長年にわたって使われてきたのだから信頼性や安全性があるとでも言いたいのだろうか?だったら、長年使われてきたにもかかわらず、いまだ効果を実証していないことを問題視しろよと言いたい。

「惰性」という言葉がしっくりくるな。

円形脱毛症に対しても評価は高くない

比較的新しい脱毛症の分類ともいえるAGAに対しては大した効果がない塩化カルプロニウムも、他の脱毛症にはそれなりの効果があるのだろう。特に円形脱毛症に関しては効能の最初に名前が挙がっているくらいだからな。

なので、2017年に策定された円形脱毛症診療ガイドラインも調べてみた。

円形脱毛症に対する塩化カルプロニウムの評価

こっちも評価はC1じゃん…

その内容を見てみると、「弱い根拠が見いだされる」「満足できる程度に毛髪が回復する結果は見いだされていない」など、評価に苦慮する文言が並んでいます。

そして締めくくりとして、カルプロニウム塩化物の有益性は十分に実証されていないが、本邦における膨大な診療実績により安全性が担保されていることを考慮し「C1:行ってもよい」とする…としている。

一緒じゃん、AGAに対しての評価と一緒じゃん!

総括すると、塩化カルプロニウムは様々な脱毛症に対してほんのりと効果を示す感じがしなくもないが、根拠もデータも不十分。でも長年処方されてきた実績があるから「行ってもいいよ」という評価らしい。

正直ちと厳しい。

カルプロニウム塩化物の試験実績

塩化カルプロニウムの試験データ

AGAに対する塩化カルプロニウムの効果はハッキリ言ってあまり期待できません。それは専門家たちによる診療ガイドラインを見ても明らかだと思います。

しかし、ミノキシジルやフィナステリドが合わないという人にとって塩化カルプロニウムが選択肢の一つに入るのもまた事実でしょう。

なので、前述の男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインにおいて示された計5件の試験データの結果を見て効果を判断してください。

ケース1
使用成分 カルプロニウム塩化物5%
被験者数 6名
期間 1ヶ月
6例中4例で抜け毛の減少や発毛が見られ有効と判断。偽薬を使った被験者には有効性は見られなかった。

ケース2
使用成分 カルプロニウム塩化物10%
被験者数 4名
期間 77~129日間
4例中2例で脱毛の抑制および軽度の発毛を示し有効と判断。

ケース3
使用成分 カルプロニウム塩化物5%
被験者数 5名
期間 3~6ヶ月
5例中3例でやや有効との結果。

ケース4
使用成分 カルプロニウム1%、カシュウチンキ、チクセツニンジンチンキ等
被験者数 30名
期間 3か月
有効以上20%、やや有効以上60%という結果。被験者には女性も含まれているが、男女別の有効性は示されていない。

ケース5
使用成分 カルプロニウム塩化物2%、カシュウチンキ、チクセツニンジンチンキ、ヒノキチオール等
被験者数 75名
期間 24週間
改善率は男性26.7%、女性54.5%。軽度改善以上は男性89.3%、女性90.9%。

どうでしょう?全体的に微妙な数字が並んでいますよね。

これらの試験はフィナステリドやミノキシジルといった発毛剤が採用する二重盲検試験ではないため、信頼性においても疑問が残ります。

■二重盲検試験とは

医薬品の臨床試験で多く用いられる試験方法。

被験者を目的の薬と偽薬を使用する群に分け、かつ参加する医師や被験者はどちらを使用したか分からない状態で効果や副作用を検証する方法。

これにより先入観にとらわれない客観的な判断が可能に。

専門家が塩化カルプロニウムの効果に対し「根拠に乏しい」とする理由はここにあります。しっかりとした臨床試験を行っていない以上、正確な効果を量ることはできないからです。

ただ、カルプロニウム塩化物を5%配合した先発薬フロジン液は二重盲検試験によって有効性が認められているとしている。しかし診療ガイドラインにおいてそこには一切触れられていない不思議。

本来であれば臨床試験の結果を真っ先に考慮するはずなのに…2010年版の男性型脱毛症診療ガイドラインも見てみたが、やはりフロジン液の添付文書にある臨床試験には触れられていない。

この臨床試験は日本で行われたものではないということなのだろうか?

ちなみに、カルプロニウム塩化物5%フロジン液の添付文書に記載されている臨床試験の結果による有効率は、円形脱毛症や壮年性脱毛症に対し55.9%とあります。

付け加えるなら、ミノキシジル5%外用薬は軽度改善以上が約98%。もちろんこれは二重盲検試験による結果です。

塩化カルプロニウムの副作用

塩化カルプロニウムの副作用については、先発薬であるフロジン液の添付文書に詳しく記載されています。

承認前に359例を対象に調査し報告された副作用は9.5%。対して承認後の調査では1456例中報告された副作用は3.0%となっています。ずいぶんと開きがあるな。

主な副作用は局所発汗やそう痒感、刺激痛、熱感。

塩化カルプロニウムは強い血管拡張作用があるため、塗布した部分の血流が促進され、かゆみや熱感、発汗といった形で現れるのでしょう。

ごく稀に悪寒や戦慄、吐き気、嘔吐などの副作用が出ることもあるとされていますが、それらは全身の発汗に伴って起こるもの。どちらかというと心理的なものなのかなと。

塩化カルプロニウムの副作用は基本的に塗布部分に対してのもの。長年の実績により安全性が確認されていることからも、副作用に対し心配する必要はないと考えます。

塩化カルプロニウムはAGAに対し力不足

塩化カルプロニウム(カルプロニウム塩化物)を5%配合したフロジン液やアロビックス外用液は、様々な脱毛症の治療薬として長きにわたり医療機関で処方されてきた実績があります。

しかし一方で明確な発毛根拠に乏しく、厚生労働省も塩化カルプロニウムに発毛効果があるとは認めていません。それは脱毛症診療ガイドラインを策定する日本皮膚科学会においても同様。もちろん世界的にも、です。

数が少なく根拠としても乏しいデータを見ても、明確な発毛効果を示すものはほとんど存在しません。外用薬としての発毛効果はミノキシジルに遠く及ばないのは間違いないでしょう。

ただ、ミノキシジルを使ってみたものの頭皮のかゆみや炎症といった副作用で使用を断念した人にとっては、塩化カルプロニウムが選択肢に入ることもあるでしょう。

そういった場合においてはダメ元で使ってみる価値はあるのかなと。

幸いカルプロニウム塩化物を5%配合するジェネリック医薬品アロビックス外用液は、他の発毛剤と異なり保険が適用されます。そうすると1本30ml入りで100円強程度。非常に安価という大きなメリットが。

ただ、AGAに対しては保険が適用されない可能性が。AGAクリニックなどでアロビックス外用薬の価格を調べると1本1,500円くらいしますからね。

良心的な皮膚科などであれば保険適用にしてくれる可能性もありますが…このあたりは何ともいえないところ。初診料や再診料、診療費、処方料から手間まで考えると、個人輸入で購入した方が安いかもしれません。

その際の価格は1本およそ2,000円ほど。3本で約4,000円。微妙ですね。しかもアロビックス外用液の内容量は30mlとミノキシジル外用薬の半分なので、1ヶ月1本ではとても足りない。

ミノキシジル外用薬に抵抗がないなら、ミノキシジル5%で2本3,820円のリグロースラボM5あたりのほうがずっとお得で効果も高い。

塩化カルプロニウム外用薬は、副作用などの諸事情でフィナステリドやデュタステリド、ミノキシジルといった発毛剤が使えない場合に使用を検討する薬。そういう認識でいいのではないでしょうか。

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