育毛剤は成分が多いほど良いは大嘘
近年は様々な育毛剤が登場し競争が激しくなっていることもあって、成分の数で差別化を図りつつ効果を演出しようとするものが多くなってきていますが、本当にそれは意味があることなのでしょうか?
ネット中心に人気になっている育毛剤として代表的なチャップアップやイクオスEXプラスなど、非常に多くの成分を配合するものが人気を集めており、成分量が効果に直結する風潮を作り出そうとしています。しかしそれ嘘ですよ。
そもそも育毛剤で新たな髪の毛を生やすことはできず、それは成分の量に左右されるものではありません。つまり育毛剤の成分は多かろうが少なかろうが薄毛に対し何の効果も発揮しないのです。
しかし、多くの育毛剤は「これだけの成分を追加しました!」「〇〇種の成分配合」と成分の多さをアピールしています。
確かに色々な成分が入っていると効果がありそうな気がしてくるかもしれませんが、実際そんなことはありません。そのあたりを詳しく解説していきたいと思います。
発毛剤の成分は極めて少ない
育毛剤の成分量や効果を語る前に、まずはフィナステリドやミノキシジルといった発毛剤の成分を考えてみましょう。
上表は2017年に日本皮膚科学会によって策定された、「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」です。基本的に病院やクリニックはこれをもとに男性型脱毛症(AGA)の治療を進めることになる重要な指針。
AGAに対し効果がハッキリと認められているのはフィナステリドとデュタステリド、ミノキシジルのみ。しかもそれは男性の薄毛に対してのものであり、女性に至ってはミノキシジル外用薬以外にほとんど選択肢がないというのが実情です。
フィナステリドはAGA治療薬として広く知られているプロペシアやそのジェネリック医薬品の主成分、デュタステリドを用いたAGA治療薬は現在ザガーロしか存在しません。ミノキシジルはリアップが有名ですね。
これらの発毛剤、育毛剤とは違い配合される成分は薄毛に対する効果が認められた1種類のみ。プロペシアならフィナステリド、ザガーロならデュタステリドといった具合。
なぜなら、AGAに効果がある成分以外を配合しても何の意味もないからです。
これは発毛剤に限らず多くの医薬品に共通する点で、有効成分は1種類、もしくは厳選された数種類のみに限定していますし、当然含有量も明記しています。
つまり、医学的・科学的に効果があると認められた医薬品というものは、ごく少ない成分に特化し1点突破を図ることで狙い通りの効果を発揮するよう作られているのです。
ちなみに、日本で初めて外用薬の発毛剤として認められたリアップX5プラスネオはミノキシジル5%に加え、いくつかの成分を配合していますが、これはあくまでもミノキシジルの補助的な役割でしかありません。
アメリカ製の最強外用薬であるフォリックスも同様。フォリックスシリーズには様々な成分が配合されているものの、発毛を担うのは5~16%配合された高濃度ミノキシジル。他の成分はあくまでもサポートなのです。
育毛剤に発毛成分は使われていない
フォリックスやリアップX5プラスネオなど、一部のミノキシジル外用薬は育毛剤同様複数の成分が配合されています。しかしどの商品もミノキシジルが主役であることに変わりはありません。個々の成分濃度もミノキシジルが圧倒的。
一方で育毛剤はどうか?
様々な成分を配合しているという点においてはフォリックスなどと同様ながら、発毛を担う成分は一切配合されていません。それを数でごまかすかのように、近年は100種前後の成分を配合する育毛剤も散見されます。
そんな烏合の衆からビワ葉エキスやオウゴンエキスなどをピックアップし、「フィナステリド同様5αリダクターゼ阻害作用がある」などと謳っているものの、そこに科学的な根拠は一切ないというのが実情。
科学的根拠があればとっくに発毛剤として認められているでしょうからね。
また、チャップアップであればジンゲルシックス、イクオスEXプラスのアルガス-3、ブブカゼロのM-034やマジョラムエキスなど、それぞれ目玉成分を創作し効果を謳いますが、これら成分、すべて化粧品にも使われる既存の成分なんですよね。
既存の成分を色々とこねくり回してそれっぽい成分名を勝手に命名し、「凄そうな成分」という印象を消費者に植え付けようとしているだけ。でも所詮は海藻エキスやショウガエキス、AGAに対し何の効果も発揮しません。
これらを含め育毛剤に使用される成分は女性用の化粧品に使われる平凡なものばかり。化粧品成分を100種集めたからって何の意味があるのでしょう? 頭皮を保湿したいの? シミを予防したいの?
ゼロにどんな大きな数字をかけたところで答えは「0」であるように、AGAに効果がないものをどんなに集めたところで何の意味もありません。
発毛効果が認められ複数の成分を配合するフォリックスやリアップX5プラスネオだって、ミノキシジルがなければ役に立たない。結局はそういうことなのです。
育毛剤の成分含有量は明記されていない
育毛剤の成分に関し、もうひとつ大きな問題があります。
医薬部外品の育毛剤というのは、厚生労働省が定めた「有効成分」を一定の濃度で配合する必要があります。そのため有効成分として配合されているセンブリエキスやグリチルリチン酸などは低濃度ながら最低限の量が配合されています。
ただ、これら有効成分のほとんどは血行促進作用や抗炎症作用が認められるだけのものであり、頭皮環境の改善や髪の毛の成長を促進させる程度の効果しか期待できないのが実情。もちろんハゲは治らない。
加えて、ほとんどの育毛剤では規定量入っているであろう有効成分が主役になることはなく、M-034やオウゴンエキスに代表される「その他の成分」を推してきます。
理由は簡単、厚生労働省によって定められている有効成分は数が限られているため、どの育毛剤も似たりよったりのものが並び差別化できないから。
そういう背景もあって、選択肢が広がる化粧品や医薬部外品添加物の中から適当な成分に焦点を当て「特色」を出そうとするのです。
しかし、そもそもその他の成分で発毛しないのはもちろん、客観的な育毛根拠を示すデータすら存在しない。そして当然ながら含有量も書いていない。
含有量すら明記していない、発毛根拠も一切ない成分を50も60も配合されたからといって髪の毛が生えると思いますか?
もうちょっと突っ込めば、コストの面から「成分の種類が多い=一つひとつの含有量は少ない」という見方もできます。もしかしたらリニューアルで追加される成分の陰で別の成分の含有量が減っている恐れすらあるのです。
考えても見てください。育毛剤にしろ発毛剤にしろ、内容量の大半は水とエタノール等のアルコール類で、いわゆるケア成分というものは10~20%程度です。
リアップX5プラスネオだってミノキシジル5%に他の成分をちょろっと配合した程度ですからね。ミノキシジルを15~16%配合し、かつアデノシンやフィナステリドなど複数の成分を配合しているフォリックスで20%に届くかどうかでしょうか。
仮にケア成分が内容量の10%として、100種類の成分が入っていた場合、単純計算で1種類あたり0.1%…強力な発毛力を持つミノキシジルですら5%程度の濃度は必要だというのに…です。
もちろん、個々の成分によって濃度は違うでしょう。0.01%のものもあれば0.5%の成分もあると思います。ただ、目玉となる成分ですら含有量表記できない点を鑑みるに、かなり少ないことは間違いない。
もし本当に高濃度で配合しているのであれば、それを大々的に宣伝するでしょうからね。リデンシルを配合した医薬部外品の育毛剤が「リデンシル5%配合!」と表示しているように。
例えばブブカゼロが「M-034を従来の10倍配合!」的な宣伝を行っていますが、じゃあその“従来”はどのくらいだったんだよと問いたい。従来の含有量が0.01%だったとしたら、10倍にしても0.1%だ。
含有量を明記していないんだから、こんなことも朝飯前ですよね。
そもそも発毛効果は一切望めない育毛剤の成分。しかも含有量表記できないほど低濃度とあっては…薄毛改善効果を期待する方が間違っています。
成分が多いことに何の意味もない
もう少し別の視点からも考えてみましょう。
仮に今あなたが頭痛で不快な思いをしているとして、目の前に2つの薬。
ひとつは頭痛に効果があるという科学的根拠がしっかり存在する1成分のみを、効果的とされる量を配合した医薬品の頭痛薬。もうひとつは頭痛に効果があると謳うサプリメント。一つひとつの成分含有量は分からないものの、様々な成分を50種集めて配合したもの。
さて、どちらが効果がありそうと感じ、実際どちらを飲みますか?
まともな感覚の持ち主なら科学的根拠がある成分1種のみの薬を選ぶはず。頭痛が深刻であればあるほどその傾向は強まるでしょう。
薄毛も同じ。痛みなど不快な症状はないため「とりあえず副作用がない育毛剤を使ってみるか」という人も多いのが実情ながら、実際は育毛剤を使っている間にも薄毛はどんどん進行し、いつしか取り返しがつかない状態に。
少し質問を変え、これが胡散臭いサプリメント成分ではなく、頭痛に効くという科学的根拠がある50種の成分だったらどうでしょう?
1種類のほうは有効成分が5mg配合されているとして、50種の方も頭痛薬として認められた成分50種が計5mg入っている場合です。
50種の方が効くと思いますか? 思いませんよね。
それぞれがどんなに効果的な成分だとしても作用はそれぞれ異なりますから、少しずつ多くの種類を集めたところで、一般的な感覚では相乗効果への期待より、効果が散ってしまうことへの懸念が強くなります。
これを育毛剤に当てはめて下さい。
そもそも発毛効果が一切なく育毛効果の実証すらほとんどされていない、作用もそれぞれ違う多くの成分をごくごく微量ずつ配合して、それに相乗効果による発毛を期待しますか?
育毛剤には副作用がない? そりゃないよ。そもそも発毛効果がないのですから、その反作用である副作用が存在するはずもない。もちろん悪い意味で。
成分量が多いという言葉に惑わされないように
効果の大きい医薬品はほぼ例外なく1種または選りすぐった数種の成分のみに特化し、病の原因に対し一点突破的な働きかけをします。
理由は簡単、そのくらいしないと効果が出ないから。
細い注射針はいとも簡単に皮膚に刺さるけど、多くの針がびっしりと並んでいる剣山であれば、素足で乗っても刺さらないのと同様。一点突破こそがAGA治療の要なのです。
遺伝という要素が極めて強い男性型脱毛症(AGA)に対しても同様で、原因である5αリダクターゼや、それが作り出すジヒドロテストステロン(DHT)を抑え込むにはフィナステリドやデュタステリドといった医薬品による強力な作用が必要不可欠。
発毛根拠が一切ない多くの成分をちょびっとずつ配合し、効果がありそうな雰囲気を演出しているような育毛剤では話になりません。
むしろ多くの成分が配合されている育毛剤というのは効果が散ってしまう可能性も高く、成分の多さがプラスには働くとは限らない点にも留意したい。
それが綿密に計算されたものであれば良いですが、ネットを中心に販売している育毛剤のほとんどは研究開発などを行う規模すらない中小企業が、髪の毛に良さそうな成分を適当にピックアップし、あとは外部に製造を委託しているだけ。
無計画に配合された数十種の成分に希望を見いだせるなら、あえて使用を止めるようなことはしません。ご自分が納得するまで使用すれば、おのずと答えは見えてくるでしょう。
しかし、本当に髪の毛を生やしたい、薄毛を改善させたいのであれば、「成分数」などという“まやかし”に惑わされず、正しい選択を行うようにしてください。
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