有効成分グリチルリチン酸では髪は生えない
市販されている育毛剤に使われる有効成分の中でも、頻繁に目にするのが「グリチルリチン酸」。有効成分に限らずその他の成分としても頻繁に見かけることでしょう。しかしこれで髪が生えるなんて思ってはいけません。
医薬部外品の育毛剤として販売するには、厚生労働省が「一定の育毛効果が期待できる」と認めた有効成分を一定量配合する必要があります。
そういった、医薬部外品の有効成分となりうるものは数十種存在するにもかかわらず、なぜグリチルリチン酸ばかりがやたらと使われるのか?
これだけ使われるという事は、それだけ素晴らしい効果があるのだろう…と考えてしまいがちですが、現実はそう甘くありません。育毛剤に使われるグリチルリチン酸の事実を見ていきましょう。
グリチルリチン酸ってそもそも何?
冒頭では「グリチルリチン酸」と書きましたが、実際にはグリチルリチン酸ジカリウムの名で呼ばれることの多い成分。
というのも、グリチルリチン酸ジカリウムはこの呼び名以外にも「グリチルリチン酸2K」「グリチルリチン酸二カリウム」と表記されることもあるため、ちょっとややこしんですよね。呼び名くらいは統一しとけよと。
この成分、漢方薬で使用される「甘草(カンゾウ)」の根に含まれるもの。
グリチルリチン酸と聞くといかにも化学物質っぽい響きに感じるものの、甘草から抽出される成分という点からも分かるように天然由来成分です。漢方薬はもちろん、育毛剤、シャンプー、化粧品など数多くの商品に配合されています。
化粧品やシャンプー、日焼け止めなどなど、広い分野において医薬部外品の有効成分として承認されているため、化粧品や薬品メーカーとしても非常に使い勝手がよく、頻繁に目にするであろう成分。
グリチルリチン酸の効果は?
グリチルリチン酸ジカリウムの元となる甘草は古来から薬として使われていた歴史があります。主な作用は鎮痛や胃腸の働きを整える効果、抗アレルギー作用、抗炎症作用など多岐にわたるのが特徴。
育毛剤や化粧品に使われる大きな理由は、抗炎症作用や抗アレルギー作用があるから。特に育毛剤においては抗炎症作用を目的に使われている場合がほとんどで、男性型脱毛症(AGA)などの薄毛改善とは全く関係ないというのが実情。
そう、「頭皮の炎症を抑えて頭皮を健やかに保ちフケやかゆみ、抜け毛を予防・改善しようね」という趣旨なのです。また、エタノールなどの刺激による炎症やアレルギー反応を防ぐ目的も。
裏を返せば頭皮に炎症がない、育毛剤を使っても炎症やアレルギー反応を示さない大多数の人には何の役にも立たない成分。
グリチルリチン酸ジカリウムに髪の毛を育てる、発毛させる効果は一切存在せず、あくまでも「頭皮を健やかに保つ」程度の効果しか期待できないのです。
一方で抗炎症作用は決して強くない。
例えば脂漏性皮膚炎やひこう性脱毛症などの皮膚炎によって、頭皮が炎症を起こし髪の毛が抜け落ちてしまう可能性がある病気。しかしこれら皮膚炎にグリチルリチン酸ジカリウムはほぼ無力。当然治療で使われることはありません。
薄毛を引き起こすほどの炎症には効果がなく、せいぜい頭皮環境を整える程度のグリチルリチン酸に何の意味があるのでしょう?
男性の薄毛の9割を占める男性型脱毛症(AGA)は男性ホルモンの一種である「ジヒドロテストステロン(DHT)」が原因で引き起こされます。
グリチルリチン酸ジカリウムがAGA改善に寄与する余地はまったくないのです。
グリチルリチン酸はなぜ育毛剤で使われる?
グリチルリチン酸ジカリウムは一定の抗炎症作用や抗アレルギー作用などが期待できる有効成分ではあるものの、常識的に考えれば抗炎症作用で髪の毛が生えないことくらい専門家でなくて分かる。
「もしかしたらミノキシジルのように本来の用途とは別の作用があるのでは…」と期待する人もいるかもしれませんが、残念ながらそんなものは一切ない本当に純粋な抗炎症作用成分。
なぜそんなハゲの役に立たないものを多くの育毛剤がこぞって使っているのか?
■育毛剤を名乗るために有効成分を使う必要がある
冒頭でも少し書いたように、医薬部外品というくくりである「育毛剤」を名乗るためには、厚生労働省が有効成分として承認している成分を一定量配合する必要があります。
それは裏を返せば「有効成分さえ入っていれば薄毛に効くかどうかは関係ない」ということでもあります。
育毛剤の有効成分として認められている成分は数十種程度とそれほど多くなく、かつ実績があって手に入れやすい成分…となると、おのずと数は限られてきます。そういった点においてグリチルリチン酸は都合がいいのです。
同じ理由でセンブリエキスや酢酸DL-α-トコフェロールなども育毛剤の有効成分としてよく使用されていますね。これらも有効成分とはいえ、発毛効果や薄毛改善効果は存在しません。
また、育毛剤メーカーはM-034やオウゴンエキスなど有効成分以外の「その他の成分」を前面に押し出し独自性を演出する傾向にありますので、ぶっちゃけ有効成分なんて何でもいい…という本音も。
■安価かつ定番の安心感
化粧品やシャンプーなど様々なものに使われるグリチルリチン酸ジカリウムは汎用性に優れ安価という特徴があります。
育毛剤メーカーとしては原料価格を少しでも抑えて利幅を大きくしたいというのが本音ですから、多くの育毛剤などに配合されていることによる安心感と価格の安さは非常に魅力的であるわけです。
インターネットを中心に販売している育毛剤の売上TOP5に入っているチャップアップやポリピュアEX、イクオスEXプラス、ブブカゼロは、すべて有効成分のひとつとしてグリチルリチン酸ジカリウムを配合していますしね。
「人気の育毛剤がこぞって配合している有効成分」と聞くと、いかにも良さそうな印象を抱きますよね? 薄毛に対し本当に効果があるのかどうかはさておき。
「とりあえずこれ入れとけばいいだろ」的な考えが透けて見えます。
■クレームや副作用を抑えてくれる
発毛効果や、それに付随する副作用もない育毛剤といえど、エタノールをはじめ数十種にも及ぶ様々な成分が入った液体を頭皮に塗る以上、肌に合わないことによる炎症やかゆみといったものが出る可能性は否定できません。
それに対し、抗炎症作用があるグリチルリチン酸ジカリウムを配合しておけば、炎症やかゆみ、紅斑などのトラブルを未然に防ぐことができる可能性が高まるため、メーカーにとって都合がいいという側面も。
極端なことを言ってしまえば、育毛剤メーカーとしては「髪の毛が生えない」というクレームより「炎症を起こした」というトラブルの方が怖い。
「髪の毛が生えない」というクレームに関しては、「そもそも育毛剤は髪の毛を生やすことが目的の商品ではない」と対応できるのに対し、頭皮のトラブルは言い訳できませんし、悪い噂も広がりやすい。
その点、グリチルリチン酸ジカリウムはトラブルの原因になりうる炎症やかゆみを抑えてくれるし、これまでの実績からトラブルを引き起こす可能性が低いことも分かっている。毒にも薬にもならない…これが重要なのです。
安いし、安心感もあるし、育毛剤によるトラブルも防止できる…そりゃ多くの育毛剤がこぞって使うわけですよね。
グリチルリチン酸で発毛することはない
医薬部外品の育毛剤のほとんどは厚生労働省が認可している有効成分を3種程度配合しており、中でもよく目にするのがセンブリエキスと今回紹介したグリチルリチン酸ジカリウムです。
「国の省庁である厚生労働省が認可しているなら髪の毛が生えそう」という印象を抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、これはグリチルリチン酸の抗炎症作用などを“ある程度”認めているのであって、発毛とはまったく無関係です。
事実、厚生労働省が管轄する統合医療の情報発信サイトでは、カンゾウエキスの注射剤によってC型肝炎に対する有益な効果が示される一方、その他のいかなる症状においてカンゾウの有効性を示す信頼性の高いデータはないと切り捨てています。
言うまでもなく髪の毛の成長との因果関係を示したデータは皆無。そりゃ抗炎症作用で髪の毛が生えりゃ苦労しない。
「多くの育毛剤に配合されているグリチルリチン酸ジカリウムは、さぞ高い発毛効果を持った成分なのだろう」と思いっているあなた、その考えは100%勘違いです。
化粧品や日焼け止めに使用されている意味を考えよう
前述したとおり、グリチルリチン酸ジカリウムは育毛剤のみならず、化粧品や日焼け止めなど多くの商品に配合されています。
何かおかしいと思いませんか?
グリチルリチン酸ジカリウムに毛を生やす効果があるのであれば、顔に塗る化粧品や全身に塗ることもある日焼け止めに配合した日にゃ…どうなるかわかりますよね。そう、ムダ毛が増えることになります。
ムダ毛が生える化粧品や日焼け止め…そんなもの誰も買いません。にもかかわらずこれらの商品にはグリチルリチン酸ジカリウムが積極的に配合されている。
なぜか? 答えは簡単、グリチルリチン酸に毛を生やす効果はないからです。
グリチルリチン酸ジカリウムに限らず、育毛剤の成分のほとんどは化粧品などにも広く使用されています。こういった事実を知れば、AGAにとって育毛剤がいかに無力かが見えてくるのではないでしょうか。
グリチルリチン酸のまとめ
医薬部外品や化粧品など広い分野で使用されているグリチルリチン酸ジカリウム。主な効果が抗炎症作用ということもあって、メーカーにとっては非常に使い勝手がいい成分といえます。
しかし、化粧品にも使用されていることからも、毛を生やす効果がないことは明白。そう、グリチルリチン酸ジカリウムをよく目にする理由は主にメーカーの都合によるもの。
「髪の毛を生やしたい」という私たちの願いを叶える成分ではないのです。
「グリチルリチン酸ジカリウムは抗炎症作用により頭皮の環境を整える成分」ということを理解しておけば、今後の育毛剤・発毛剤選びに役立つのではないでしょうか。
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