酢酸DL-α-トコフェロールはただのビタミンE
育毛剤の有効成分としてはセンブリエキスやグリチルリチン酸ジカリウムほどメジャーではないものの、比較的目にする機会の多い酢酸DL-α-トコフェロールですが、ハッキリ言ってこんなもので髪の毛は生えません。
この酢酸DL-α-トコフェロールは厚生労働省が有効成分として承認しているため「それなりに育毛効果があるのだろう」と思われがち。しかしこの成分を詳しく知れば「こんなもので発毛するはずがない」と分かるはず。
どちらかというと女性用育毛剤に使用されることの多い酢酸DL-α-トコフェロール。
育毛剤のメーカーや育毛関連サイトでは酢酸DL-α-トコフェロールの使用によってあたかも髪の毛が生えそうなことを謳っていますが…発毛にとってどれだけ無意味な成分なのか詳しく取り上げてみたいと思います。
酢酸DL-α-トコフェロールって何?
私たちが普通に生活している中で「酢酸DL-α-トコフェロール」という言葉を見聞きすることはまずありません。では具体的にどういった成分なのでしょうか?
「トコフェロール」というのは自然界に広く存在するビタミンEを指し、酢酸DL-α-トコフェロールは人工的に作り出したビタミンEのこと。
多くの食品などに含まれるなど普遍的なビタミンEを、なぜわざわざ人工的に合成して作り出す必要があるのか?
それは天然のビタミンEが脂溶性であることがポイントに。脂溶性であるビタミンEは育毛剤や化粧品などに配合しても溶融することができす、効果が不安定だから。
水に溶けにくい脂溶性のトコフェロール(ビタミンE)ではなく、水に溶ける水溶性の酢酸DL-α-トコフェロールを配合することで安定した効果を期待できる…というのが主な目的。
なるほど、そう考えると理に適っているようにも感じますが、冷静に考えればただのビタミンEを配合して髪の毛が生えるのか?という疑問が。しかも本来の効力は合成より天然の方が上ときているから質が悪い。
酢酸DL-α-トコフェロールの一般的な効果
人工ビタミンEである酢酸DL-α-トコフェロールの効果を頭ごなしに否定しても説得力はないので、まずは酢酸DL-α-トコフェロール(ビタミンE)が育毛剤に使われる理由を見てみましょうか。
■強い抗酸化作用
ビタミンEにはビタミンCと並ぶほどの強い抗酸化作用があるとされ、その効果は老化を促進させる活性酸素の除去や無力化が主となります。
この活性酸素は体中の細胞にダメージを与えるため、増えすぎると髪の毛の基になる毛母細胞や毛乳頭細胞を攻撃、薄毛になるという理屈。
ただ、酢酸DL-α-トコフェロールのような合成型のビタミンEの抗酸化力は天然のものに比べ60~70%程度しかないとされています。
そもそも抗酸化作用を持つ成分はビタミンCやリコピン、βカロテン、アスタキサンチンなど様々あるが、これで毛が生えたなんて話は聞いたことがない。
現在から過去まで、抗酸化作用がある成分の発毛効果に関する研究や論文、データなどを調べてみましたが、科学的根拠を有するデータは存在しません。
それもそのはず、男性の薄毛の9割を占める男性型脱毛症(AGA)は、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロン(DHT)や、毛根に存在するアンドロゲンレセプター(男性ホルモン受容体)の働きで引き起こされるもの。
そのメカニズムに抗酸化作用が介入する余地などありませんからね。
それでなくてもビタミンEは抗酸化物質の中でも抗酸化力は弱い。酢酸DL-α-トコフェロールに薄毛改善効果を期待するのは酷というもの。
■血行促進効果
酢酸DL-α-トコフェロールには育毛剤定番の血行促進効果があります。
頭皮の血行が良くなれば酸素や栄養が十分に行き渡るようになり、結果髪の毛が生える…的な意見が多いものの、血行促進してハゲが治れば苦労しない。頭皮マッサージを必死に行うも無残にハゲていった先人に謝れ。
ちなみに発毛剤ミノキシジルは本来血管拡張剤なので強力な血行促進効果があるものの、その効果で髪の毛が生えているわけではなく、毛母細胞や毛乳頭細胞の増殖や分裂を強烈に促して発毛している。
頭皮の血行促進が育毛や発もに繋がるという説は半ば常識化していますが、それによって髪の毛が生えたという科学的根拠は乏しいのが実情。はるか昔から「薄毛改善には血行促進」と言われているにもかかわらず…です。
医薬品であるフロジン液(成分:カルプロニウム塩化物5%)の血管拡張作用や血行促進効果をもってしてもAGAは改善しないというのに、限度量1%以下と定められている微量の酢酸DL-α-トコフェロールによる血流改善で薄毛が治るはずがない。
インターネット上に溢れる育毛サイトや育毛剤メーカーのサイトなどで酢酸DL-α-トコフェロールを調べると、いかにも薄毛に効果がありそうなことが書き連ねられています。
しかし、これらはあくまでも宣伝文句であり、科学的根拠に基づいたものではありません。実際、酢酸DL-α-トコフェロール含めビタミンEを頭皮に塗布して髪の毛が生えたというデータは一切存在しませんからね。
多少なりとも血行促進効果や抗酸化作用があるのであれば、頭皮環境の改善には効果がありそうですが、そもそもAGAのメカニズムに頭皮環境は関係ありません。
数カ月間髪の毛を洗っていないなど、どんなに劣悪な頭皮環境でも、AGAを発症していなければハゲることはまず考えられないのです。
男性ホルモンや毛乳頭内のアンドロゲンレセプターの感受性によって引き起こされるAGAに対し、微量の酢酸DL-α-トコフェロールで対抗しようなど、戦車に水鉄砲で挑むようなものですよ。
酢酸DL-α-トコフェロールはむしろ危険?
そもそも酢酸DL-α-トコフェロールは元々皮膚トラブルを起こす可能性があるとする「旧表示指定成分」で、弱い毒性があり、場合によってはアレルギー症状を引き起こすと規定されていた成分だって知ってましたか?
この旧表示指定成分は、肌や皮膚トラブルを引き起こす可能性があるとして2001年3月まで表示が義務付けられていたもの。102種類が存在し、その中に酢酸DL-α-トコフェロールも含まれていました。
現在は全成分表示が義務付けられたためこの指定はなくなりましたが、考えようによってはこれまでリスクのある成分として個別に表示していたものが、全成分表示の中に埋もれ分かりづらくなってしまったとも取れます。
「無添加」を謳っている育毛剤ってよく見ますよね。
化粧品業界などでの無添加は、一般的に酢酸DL-α-トコフェロールを含め102種の旧表示指定成分を配合していないものを指す場合がほとんど。
でも育毛剤の場合酢酸DL-α-トコフェロールなど旧表示指定成分を配合しているにも関わらず「無添加」を謳っているものも散見されます。
育毛剤の無添加はあくまでもパラペンやシリコン、着色料など各社が勝手に指定した数種の成分を添加していないという意味で、一般的な無添加のイメージとは程遠いので気を付けましょう。
酢酸DL-α-トコフェロールの副作用
酢酸DL-α-トコフェロールは旧表示指定成分であったことから、副作用を懸念する人もいることでしょう。
しかし、酢酸DL-α-トコフェロールの副作用リスクは極めて低く、外用・服用かかわらず安全であるとことが試験で実証されています。頭皮への刺激性もほとんどなし。
このように、酢酸DL-α-トコフェロールを頭皮に塗布して何らかの害が出る可能性はほとんどなく、なぜ表示指定成分になっていたのか不思議なくらい。
ただ、そういった事実をひた隠していかにも効果がありそうなことばかり謳っているサイトやメーカーが多いので、「こういう側面もあるんだよ」という注意喚起も兼ね、参考までに書かせてもらいました。
酢酸DL-α-トコフェロールで髪は絶対に生えない
酢酸DL-α-トコフェロールは合成ビタミンEということで、頭皮に塗布すれば若干の抗酸化作用や血行促進作用は期待できるかもしれない。
ただ、冷静に考えれば髪が生えないことは明白。
男性型脱毛症(AGA)は主に遺伝によって分泌量が決まる5αリダクターゼと、男性が旺盛に分泌するテストステロンという男性ホルモンが結びついて作り出されるジヒドロテストステロン(DHT)が髪の毛の成長を阻害するという、絶望感すら感じる強力なメカニズムにより発症します。
ビタミンをチョロッと塗って髪生えると思いますか?
しかも天然モノより劣る合成ビタミンEで、かつては表示指定成分ときた。頭皮環境改善どころか悪化させる可能性もゼロではない。
強力なメカニズムにより顕在化する薄毛には、同じく強力な発毛メカニズムを持つフィナステリドやデュタステリド、ミノキシジルでしか対抗できないと考えるのは自然…というか必然であり、それは全世界での共通認識です。
育毛剤メーカーや育毛サイトが書き連ねる、自分たちに都合のいい無責任な売り文句に騙されないようにしてください。
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