AGAリスク検査の信頼性は?

AGAリスク検査の信頼性は?

現在の薄毛がAGA(男性型脱毛症)なのかどうかを調べたり、将来的にAGAになる可能性を評価したりすることができるとされる「AGAリスク検査」というものが存在します。

薄毛になるリスクを前もって知ることで“心構え”ができますし、どういった治療が有効なのかを推測することができる可能性も。

一口に「AGAリスク検査」といってもその方法は主に2種類。AR(アンドロゲンレセプター)遺伝子を調べる「CAG・GGCリピート数検査」と「DHT(ジヒドロテストステロン)量検査」の2つに大別されます。

しかしこれらAGAリスク検査、どこまで信頼できるのでしょうか? 結論から書けば「エビデンス(科学的根拠)に乏しい」と言わざるを得ない現状が。

科学的根拠をもとにそれぞれの検査の信頼性や注意点を詳しく解説していきます。

AR(アンドロゲンレセプター)遺伝子検査の信頼性

複数のAGAクリニックや、DHCが販売しているAR遺伝子検査キットにおいてAGAのリスクを調べる方法が「CAG・GGCリピート数検査」です。

といっても、「CAG・GGCリピート数って何だ?」という人が大半だと思われますので、それに繋がるAGA(男性型脱毛症)のメカニズムについて簡単に解説しておきます。

AGA(男性型脱毛症)のメカニズムとは

男性の薄毛の9割を占めるとされるAGA(男性型脱毛症)は、「DHT(ジヒドロテストステロン)」という、強力な男性ホルモンの一種によって引き起こされます。

このDHTは、男性が多く保有する「テストステロン」という男性ホルモンと、「5α-リダクターゼ(5α-還元酵素)」が結びついて作られるもの。

AGA治療薬であるプロペシアやザガーロは、この5α-リダクターゼの働きを阻害することでDHT生成を抑制し、AGAの進行を食い止め薄毛を改善する薬ということになります。

もう少し掘り下げて、なぜDHTがAGAを引き起こす原因になるのかについて。

髪の毛の根元…毛根内には毛乳頭細胞という細胞が存在し、その中には「アンドロゲンレセプター(AR)」と呼ばれる、DHTを受け止める受容体が存在します。

DHTがアンドロゲンレセプターと結合することで髪の毛の成長を止め、早期に脱毛させてしまうシグナルが発せられ、これが活発に行われるようになるとAGAを発症してしまうのです。

しかしこのアンドロゲンレセプターの数(感受性)は個人差が大きく、その感受性を決定づけるのが母親から受け継ぐX染色体に刻まれた「AR遺伝子」とされます。

CAGとGGCのリピート合計数がAGA発症のカギ?

遺伝子(DNA)は二本の規則正しいらせん構造になっており、X染色体に存在するAR遺伝子には「C(シトシン)・A(アデニン)・G(グアニン)」の塩基配列と「G(グアニン)・G(グアニン)・C(シトシン)」の塩基配列が繰り返されている領域が存在します。

そして、このCAGとGGCが繰り返されている数によってAGA発症のリスクを読み取ろうというのがAR遺伝子検査の目的となっています。

具体的にはCAGとGGCのリピート数が計38以下であればアンドロゲンレセプターの感受性が高くAGAの発症リスクが高いとされ、計39以上であれば感受性は低いためAGA発症リスクも低い…というもの。

また、CAGのリピート数からはプロペシアに代表されるフィナステリド内服薬の効きやすさを読み取ることができるとも。

CAGのリピート数は25前後が標準的とされ、23以下であればフィナステリドが効きやすい、27以上であれば効きにくいとされます。

ちょっと何言ってるか分からない。

要は男性が母親から必ず受け継ぐX染色体の中のアンドロゲンレセプターに関する遺伝子の領域に存在するCAG・GGCという塩基配列のリピート数からAGA発症リスクとフィナステリドの効きやすさが分かるというもの。

AGAリスク検査を行っているAGAクリニックはほとんどがこの検査法を用いていることからも、高い信頼性があるように感じますが…なんといっても多くのAGA専門医が行っている検査ですからね。

信頼性に乏しいAR遺伝子検査

しかし、です。多くのAGAクリニックで行われているこのAR遺伝子検査ですが、エビデンス(科学的根拠)はほとんど存在しないと言っても過言ではありません。

むしろ否定されていると考えていいかもしれません。

男性48名、女性60名を対象に試験が行われ、1998年に報告された結果によると、AGAを発症している被験者は発症していない被験者に比べCAGリピート数が少ない傾向にあったとされます。

しかし、2012年に報告された試験では、AGAを発症している2074名と、AGAではない対照群1115名という大規模なものだったにもかかわらず、CAG・GGCリピート数とAGAとの関連性は確認できなかったと結論付けています。

ちなみに、この2つの試験結果以外にこれといった試験は行われていない模様。

小規模の試験においてCAG・GGCリピート数とAGAとの相関性が示され、大規模な試験で否定される…常識的に考えればCAG・GGCリピート数でAGAリスクは判断できないという結論になるでしょう。

この検査を行うのであれば、結果は参考程度と考えておきましょう。

フィナステリドの治療効果の判断

CAG・GGCリピート数によるAGAリスク検査に科学的根拠は存在しないのに対し、CAGリピート数やGGCリピート数からプロペシアなどのフィナステリド内服薬の効きやすさを読み取る試験については一定の成果を上げているようです。

AGA患者178名を対象に行われ2008年に報告された試験結果は、CAGリピート数によってフィナステリドの治療効果に有意な差が見られたとあります。

具体的には、CAGリピート数が25以下の場合、フィナステリドの服用によって85%超が中程度改善~高度な増加が望める一方、26以上の場合は顕著な改善は見られていません。また、CAGリピート数は少なければ少ないほど治療効果が高いとも。

また、2019年に報告された試験結果では、CAGリピート数とフィナステリドの治療効果に関連性は見られなかったとされる一方、GGCリピート数が少ないほど脱毛の停止、発毛数が増えたとあります。

ちなみに試験の対象者はAGA患者25名、非AGA25名の計50名で行われています。

CAGリピート数とフィナステリドの治療効果の相関性に関しては微妙な判断になってしまうものの、GGCリピート数と併せて判断するとすれば一定の信頼性はあるのかもしれません。

そうはいっても、どちらもエビデンスレベルには程遠い小規模な試験であるため、過度な期待は禁物といったところでしょうか。

DHT(ジヒドロテストステロン)量検査の信頼性

これまでAGAリスク検査といえば、前述したアンドロゲンレセプター(AR)内の塩基配列であるCAG・GGCリピート数からAGA発症のリスクやフィナステリド治療の有効性を判断するものしか存在しませんでした。

しかし2021年になって「あすか製薬株式会社」から新たな検査キットが登場。それが「毛髪ホルモン量測定キット」です。

毛髪ホルモン量検査キットの信頼性

このAGAリスク検査キットは、それまでのAR遺伝子を調べるものではなく、実際の髪の毛からAGAの原因物質であるDHT(ジヒドロテストステロン)の量を測定し、潜在的なAGAのリスクを判定するというもの。

テストステロンより強力な男性ホルモンとされるDHTは、加齢によるテストステロンの減少を補うために増えるとみられており、歳を重ねると共にAGAを発症する人が多くなる点を鑑みてもその説は説得力があります。

また、代表的なAGA治療薬であるフィナステリドやデュタステリドは、どちらもDHTを生成する酵素「5α-リダクターゼ」を阻害することでDHTの量を激減させ発毛を促す医薬品。

そういったAGAの背景を考えると、髪の毛に含まれるDHTの量でAGAのリスクを判定するというのは理にかなっている。測定結果にはそれなりの信頼性が伴う印象を受けますよね。

毛髪ホルモン量測定キットの科学的根拠は?

髪の毛からAGAの原因物質であるDHTの量を測定し、AGAのリスクを判定する「毛髪ホルモン量測定キット」。クラウドファンディングで支持を集め2021年に登場した新しい検査法ということもあり期待は膨らみます。

しかし、この記事をまで読んできた方なら、DHTの量でAGAリスクを判断するという点にある種の違和感を覚えたのではないでしょうか? そう、この検査はアンドロゲンレセプターの存在を完全に無視しているのです

AR遺伝子検査の項目でも書いたように、毛乳頭細胞内のアンドロゲンレセプターとDHTが結合することでAGAは発症します。裏を返せば、DHTがアンドロゲンレセプターと結合しなければAGAにならないことを意味していることに

極端な話をすれば、どんなにDHTの数が多かろうが、アンドロゲンレセプターの数や感受性に乏しければAGAは発症しないし、DHTの量が少なくてもアンドロゲンレセプターの感受性が高ければAGAを発症する可能性が高い。

AGA治療薬であるフィナステリドは血清中のDHTを70%超減らし、デュタステリドに至っては90%超減らすことが分かっています。

これだけDHTを激減させているにもかかわらず、まったく効果が出ない人や現状維持や軽度改善程度の効果に留まってしまう人も多く、これら単体の使用では激的な発毛効果までは望めないのは、アンドロゲンレセプターの感受性がAGAのカギを握っているからと見るのが自然。

ハッキリ書いてしまえば、毛髪内のDHTの数だけでAGAのリスクを判定するというのはあまりにも乱暴

実際、毛髪ホルモン量測定キットを開発・販売しているあすか製薬の公式サイトでは繰り返し「あくまでAGAのリスクレベルを評価するもので、AGAであるかを判断するものではありません」と記されている。

AGAリスク検査キットは信頼性に乏しい
出典:あすか製薬


また、「毛髪ホルモン量測定キットで得られる情報は、医師による診断に置き換えられるものでも、補充するものでもない」とも。

要は「検査結果に一切の責任は持たないよ」ということ。

事実、AGAを発症している人は血清中のDHT濃度が有意に高かったとする研究結果がある一方で、AGA患者もAGAを発症していない人も血清中のDHT濃度に有意差はなく、遺伝的に決定された感受性の反応が左右するとの研究結果もある。

この血清中のDHT量を調べてAGAリスクを判断するという検査はAGAクリニックでも行われています。しかしその信頼性に関しては疑問と言わざるを得ないでしょう。

ましてや、あすか製薬の毛髪ホルモン量測定キットは髪の毛に含まれているDHTの量を計測するキット。頭皮や頭頂部のDHT量とAGAとの関連性を調べた研究は存在するものの、毛髪のDHT量に関しては見当たらないんですよね。

つまり科学的根拠は存在しないということ。

とはいえ、毛根に存在する毛乳頭細胞内でDHTがアンドロゲンレセプターと結合してAGAが発症するという事実と、フィナステリドやデュタステリドでDHTを減らすことでAGAの改善が期待できる点を考慮すれば、髪の毛のDHT量とAGAが無関係と言い切る方が不自然か。

血清中や毛髪内のDHT量が多ければAGAを発症すると断定はできないと前置きしたうえで、「AGAになる可能性を探る」という点においては参考になるのではないでしょうか。

遺伝子の塩基配列からAGAリスクを判断するCAG・GGCリピート数と違い、「AGA原因物質であるDHTの量」という非常に単純かつ分かりやすい検査であることが、かえって説得力を増す要因になっている気がします。

このあすか製薬の毛髪ホルモン量測定キット、一部AGAクリニックで販売しているほか、ネット通販でも購入することができます。

自宅で頭頂部の髪の毛を5本切って台紙に貼り付けポストに投函するだけと非常に手軽、かつ価格も6,000円程度と、一般的なAGAリスク検査に比べ安価なので、気になる人は試してみてもいいのかもしれません。

ただし、どんな結果が出ても参考程度に留めておいてくださいね。

AGAリスク検査に過度な期待は禁物

現在AGAクリニックや検査キットで行えるAGAリスク検査は大きく分けて2つ。AR遺伝子の一部の塩基配列リピート数を調べる「CAG・GGCリピート数」と、血清や毛髪のDHT量を調べる方法です。

しかし、現状ではどちらも信頼に足るだけの根拠はないと言わざるを得ません。

CAG・GGCリピート数とAGAの相関性を調べた試験では有意性が確認されたケースがある一方、「リピート数とAGAの発症に関連性はない」とする試験結果もあり、信頼性が高いとは口が裂けても言えない。

ただ、CAGやGGCのリピート数が少ないほどフィナステリドが効きやすいという説については、弱いながらも一定の科学的根拠があると判断できるかと。そのため、リピート数検査を行うことで得られるものもあるでしょう。

とはいっても、CAG・GGCリピート数が多かろうが少なかろうが、AGAの第一選択薬はフィナステリド、もしくはほぼ同一の作用を持つデュタステリドであり、治療薬の選択肢はほとんどないのが実情。結局フィナステリドを使うしかない。

もうひとつのリスク検査である血清や毛髪のDHT量を調べる方法は直感的で分かりやすいだけに、結果に一定の説得力はある。また、CAG・GGCリピート数を調べる遺伝子検査に比べ安価なのも嬉しいところ。

ただし、AGAの発症には遺伝によって決まるアンドロゲンレセプターの感受性が大きく影響し、DHTの量だけでは判断できない。結局この検査方法も参考程度と考えておいたほうがいいでしょう。

はっきり言ってしまえば、AGAのリスクを調べる検査なんて大した意味を持たない。

自分の薄毛がAGAかどうかなんて、ハゲかたを見れば一目瞭然。生え際や頭頂部だけ薄くなっているならほぼ100%AGAと思って間違いないし、そもそも男性の薄毛のほとんどはAGAだ。

頭皮に重度の炎症がある、もしくは円形脱毛症のようにところかまわず500円玉サイズのハゲができた…という以外はAGAと思って間違いありません。

将来的なAGAリスクを知りたいために検査を行うというのであれば、さらに無意味。検査自体が信頼性に乏しいうえに、仮にリスクが高いとの診断結果が出たとしても、それがいつなのかは誰にも分らないのですから。

結局はハゲを実感した段階でAGA治療を行うことになる点に変わりはない。信頼性に乏しい検査で不安を煽る必要などないのです。信頼性が低いからリスクが低いという結果が出ても信用できないしね。

それでも検査してみたいというのであれば止めはしません。ただ、どういった結果が出るにせよ、それを盲信せず参考程度に留めておきましょう。

高い効果で人気の発毛剤
このエントリーをはてなブックマークに追加
育毛剤に惑わされ発毛機会を損失する人が1人でも減るよう拡散お願いいたします。

あわせて読みたい関連記事

カテゴリ一覧