発毛剤に耐性がついて効かなくなる?
フィナステリドやミノキシジルといった発毛剤は男性型脱毛症(AGA)の治療薬として大きな効果を期待できます。しかし薬である以上、長い期間使っていると耐性がついて効きにくくなるのではないかという懸念が根強く存在します。
私自身も発毛剤を長らく使用している中で「効き目が薄れてきたかな?」と感じる経験をしてきましたし、今もそう感じることがあります。
髪の毛が生える唯一の薬である発毛剤を長期間使用すると、体に耐性がついて効きにくくなってしまうのか? またそう感じた時どう対処すればいいのか?
いくつかのデータを用いながら客観的に検証してみたいと思います。
フィナステリドの長期データ
日本で発毛剤として認められているフィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルの3つの成分は、“医薬品”にカテゴライズされているため、当然ながら大規模な臨床試験を行い医薬品としての承認を受けています。
とはいえ、臨床試験の期間は6ヶ月~1年間程度。その後の効果や耐性の有無まで追跡調査しているものは少ないのが実情。
しかし、プロペシアに関しては製造・販売を行うMSD株式会社は3~5年間という、長期間にわたるデータを開示しています。
プロペシア3年間使用の臨床データ
まずは3年間使用した際の改善率を示したものを見てみましょう。
このデータからは改善している人の割合が年々増えていることが見て取れ、その上昇の程度も一定であることから、少なくとも3年間の使用においては耐性によって効果がなくなってしまうということはなさそうです。
ただし、このデータでは顕著な改善も軽度な改善も「改善」でひとまとめになっており、その内訳が確認できません。薄毛が改善した人が増えている一方、耐性によって著明な改善が減っている可能性も否定できないのです。
そのあたりを読み取るには、次に紹介するデータの方が適しているかも…
プロペシア5年間使用の臨床データ
次に、同じくMSD株式会社による5年の臨床試験データを見てみます。
これを見ると少し評価が変わってくるかもしれません。
ここで示されているのはプロペシア(フィナステリド)1mgとプラセボ(偽薬)を5年間飲み続けた場合の毛髪量を比較。年を追うごとにその差が開いていることが見て取れます。
気になるのはプロペシアを飲んだ群において、最初の1年は一気に毛髪量が増えるものの、その後はじわじわと減っていっている点。「これは耐性がついていることを意味しているのではないか?」と感じてしまいますよね。
しかし、仮にフィナステリドに対し耐性がついて効果が薄くなっているのであれば、服用を中止したのと同様に一気に髪の毛が減ってプラセボ群に近づかなければ説明がつきません。
2年目以降、徐々に髪の毛が減りながらもプラセボ群に対し差が開く一方ということは、5年後もしっかりと効果が持続していると見るべきでしょう。
2年目以降に髪の毛が減少に転じている理由。それは1年目で薬の効果を最大限発揮し、その後は男性型脱毛症(AGA)による薄毛進行とフィナステリドの効果が拮抗することにあると見ています。
フィナステリドを飲んでいるとはいえ、本来AGAは進行していくものですから、薬の量に変化がない以上加齢と共に徐々にAGAの薄毛パワーが押す展開となり、上記のような結果になっていると推測されます。
とはいえ、プロペシアを飲み始める以前の状態より、プロペシア服用5年後のほうが髪の毛の総量は多いのですから、使用する価値は十分にあるといえるでしょう。
■海外の10年追跡データ
上記のプロペシア服用3~5年後のデータは、製造・販売元であるMSD株式会社のものですが、海外にはフィナステリド1mgを10年間使用し追跡したデータも複数存在します。
英語を翻訳しているので「何書いてるか分からない感」が満載ではあるものの、翻訳を駆使し読み解いてみると、すべての人に効果があるわけではないが、多くのAGA患者において5~10年後も良好な結果を残していることが分かります。
■523名の日本人を対象に10年間追跡したデータ
10年間使用に関する複数の試験の中でも、特に注目したいのが日本人男性523人を対象に10年間追跡した試験データ。
結果としては、改善した割合は91.5%、薄毛進行の予防効果は99.1%という極めて高い効果が得られています。
この試験では「ハミルトン・ノーウッド分類」を用い、薄毛の進行具合によりⅠ~ⅦのステージごとにAGA患者を分類し、それぞれの結果を調査。
やはり…というかなんというか、薄毛が進行していない人ほど良好な結果が得られており、かなり進行しているⅥやⅦのグループでは「わずかな改善」が大多数を占めています。
それでも、“多少なりとも改善するだけまし”といえるかと。
本来であれば10年という歳月により相当な薄毛進行が見込まれる中で、フィナステリドを使用すれば10年後も現状維持以上はほぼ約束されている…という研究結果なのですから。
このことから、発毛剤を長期間使用したところで耐性がつくことはほとんど考えられず、最初の1年で一定以上の効果があった人はその後5年10年経っても効果は持続し続けると結論付けられています。
フィナステリドでこういった結果が出ていることから、同じ作用でより強い効果があるデュタステリドも同様だと推測されます。
耐性がつくという見解の医師も
これらのデータを踏まえれば、フィナステリドやデュタステリドを長期間使用したからといって耐性がつくとは考えにくく、医師などの専門家の見解も「プロペシアを10年使ったところで耐性は付かない」というのが一般的。
しかし、ごく一部の医師、医療機関においては「耐性がつく」との見解を示すケースも。
中には効果を維持するために1mg以上を処方する医師も存在するらしいのですが、当然副作用のリスクを増やすことにも繋がるため、安易な増量はおすすめできません。
それはAGAクリニックや皮膚科を受診している人はもちろん、個人輸入でフィナステリドなどを購入している人も同様。
個人輸入を用いている場合、自分の判断で簡単に量を調整できるだけにむしろ危険。「最近効き目がなくなってきたなー」と感じている人もいるでしょうが、それは耐性がついたのではなくそういった薬の特性と判断するべきでしょう。
ミノキシジル外用薬の場合は?
ここまではフィナステリドなど内服薬について耐性の有無を見てきました。しかし、発毛成分はもうひとつ存在しますよね。そう、リアップやフォリックス、カークランドの主成分である「ミノキシジル」です。
ミノキシジルの長期使用における効果や耐性の有無については客観的なデータに乏しいというのが実情。
最も信頼性が高いデータは大正製薬のリアップX5プラスの臨床データになるでしょうか。
これは52週(1年)のものなので、耐性の有無を判断することは困難ながら、28週あたりから効果の出方が緩やかになりながらも、改善した人がじわじわと増えているあたり、プロペシアのデータに通じるものがあります。
皮膚炎などで処方される塗り薬を長期間使い続けると耐性を持った菌が生まれることで知られていますが、外用発毛剤の場合細菌に対するものではないため、耐性がつく可能性は低いと見ることができるのではないでしょうか。
実際、リアップX5プラスネオなどのミノキシジル外用薬を年単位で使用している人は多く、それは裏を返せば効果を実感しているからこそやめない・やめることができないことを意味しているのではないでしょうか。
…まあ、1年を超えるデータがない以上推測の域を出ませんが…
耐性がついたと感じた時の対処法
プロペシア(フィナステリド)の長期使用の試験データなどを見るに、発毛剤を長期間使用したとしても耐性がつく心配はほとんどないと見ていいでしょう。
とはいえ、実際問題として「効き目が落ちた」と感じることは多々ある。プロペシアを製造・販売するMSD株式会社の5年臨床試験の結果を見ても、飲み続ければずっと改善し続けるという性質の薬ではないことは明らか。
薄毛の治療は徐々に進歩しているとはいえ、今現在は必ずしも劇的な効果が望めるとは限りません。前述したように多くの場合は一定の改善を見せたところでAGAの進行と発毛剤の効果が拮抗し頭打ちになる傾向にあります。
もちろんその後も効果を発揮し続けるため使用は続けるべきですが、それでも「もっと効果が欲しい」「耐性がついたのでは?」と感じることがあるでしょう。
そう感じた場合の対処法として考えられるのは…
■デュタステリドに替える
今現在プロペシアなどのフィナステリド内服薬を使用しており、「耐性がついた気がする」「効果に限界を感じている」という場合は、1.5~1.6倍の効果があるとされるデュタステリドに切り替えるという方法があります。
より効果の大きいデュタステリドに変更することで副作用も強くなるのではないかと心配をしている人もいると思いますが、すでにフィナステリドを使用しているのであれば、それほど気にする必要はないはず。
ただ、医療機関で処方してもらうにしろ、個人輸入で購入するにしろ、価格はフィナステリドの約1.5倍ほどなので、出費が増えることは覚悟しておく必要があります。
しかし、今現在医療機関でプロペシア(1ヶ月約7,000円)を処方してもらっている場合、ベルトリド(1ヶ月約2,000円)などの海外製のデュタステリドに替えることで激的に出費を減らしつつ、より高い効果を狙うこともできますけどね。
■ミノタブを追加する
今現在フィナステリドやデュタステリドしか使っていない、もしくはミノキシジル外用薬を使っているという場合は、最強の発毛剤ともいわれるミノキシジルタブレット(ミノキシジル内服薬)を使うという手もあります。
ただ、確かにミノキシジル内服薬は高い発毛効果が見込めるものの、フィナステリドやデュタステリドとは異なり本来は血管を広げて血圧を下げる薬とあって、副作用のリスクも考慮しておく必要があります。
とはいえ、発毛剤として使用するミノキシジル内服薬の1日の限度量は10mgと、本来の血管拡張薬としての限度量50~100mgに比べ遥かに少ないので、過度に怖がる必要はありませんけどね。
■限界を甘んじて受け入れる
前述したように、フィナステリドやミノキシジルの1日の限度量は、本来の使用用途である前立腺肥大症の治療薬ならびに血管拡張剤としての限度量に比べ5分の1ほどの量なので、比較的安全性の高い薬というのが我々の共通認識。
とはいっても副作用が存在する医薬品であることは間違いないため、可能であれば飲まないに越したことはありません。
仮に発毛剤の効果に限界を感じてしまったとしても、無対策の場合に比べ髪の毛の量の増加・維持という恩恵を受けている可能性が高い。
であれば、発毛剤などをこれ以上追加することなく、年齢と共に徐々に薄くなる状況を受け入れるという方法も。
徐々に薄くなっていくとはいえ、フィナステリドなどを使い続けていれば、そのスピードも緩やか、かつ自然なものになりますしね。
…まあ、薄毛を受け入れることができれば苦労はしないんですけどね。
私自身、発毛剤の使用により髪の毛が増え、「世の男性の薄毛率が高くなってくるであろう40歳まである程度の髪の毛が維持できれば、徐々に薄毛を受け入れることができるだろう」と思っていた時期がありました。
しかし、実際に40歳を迎えても、これまでと変わらぬ髪の毛への執着が…なんだかんだ言って髪の毛はあるに越したことはないですからね。
ただ、薄毛を受け入れてしまうのがベストであることは間違いありません。「発毛」というゴールの無い苦行から解放されるのですから。
発毛剤の耐性がつく可能性は低い
ここまで発毛剤の耐性について書いてきましたが、いかがだったでしょうか。
フィナステリドを長期間用いたデータなどを見るに、発毛剤の長期使用で耐性がつく可能性は低いということが見えてきたと思います。
とはいえ、発毛剤でもっとも大きな効果が期待できるのは最初の1年目で、その後は維持する方向に向かう傾向にあるという性質は変えようがなく、そこからもう一段上の効果を望むなら、デュタステリドに替えたりミノキシジルを追加したりといったことが必要になる場合も。
ただ、発毛剤でどの程度効果が出るか、どういう効き方をするかなど個人差が大きく、実際は使ってみないと分からないというのが実情。
海外のデータのように10年間じわじわと改善していく例もあれば、ほとんど効かないという場合もあるでしょう。
そう考えると、人によっては耐性がつく可能性も否定できないため、発毛剤の使用によって効果が出たのち、使い続けているにも関わらず目に見えて悪化するような状況に陥った場合は、いったんその発毛剤の使用を中止し別のものに切り替えるべきかもしれません。
注意して欲しいのは、安易に薬の量を増やさないこと。
効き目が弱くなったからといって飲む量を増やしてしまうとキリがなくなってしまうので、フィナステリドなら1mg、デュタステリドなら0.5mg、ミノタブなら10mgを厳守するようにして下さい。
現状、手軽に、かつ安全に発毛効果を高めたいのであれば、フィナステリドからデュタステリドに替えるというのがベストになるでしょうか。
私がフィンペシアからベルトリドに変更したように…
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