フィナステリドで前立腺癌や男性乳癌に?

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高い発毛効果によりハゲに希望を与え続けているフィナステリド。しかし副作用に対する懸念が存在するのは間違いなく、中には癌(がん)のリスクを高めるのではないかという意見も。

「髪の毛は欲しいが癌になってはたまらん」…というわけで、フィナステリドと癌との関連性を徹底的に調べ上げてきました。

フィナステリドが原因となるのではないかと懸念されている癌は前立腺癌と乳癌の2つ。同成分は男性にしか使えないため、ここでの乳癌は男性のものです。

これからフィナステリドの使用を考えている人、すでに使っている人共に癌との関連性は気になるところですよね。各種データや専門家の見解などからフィナステリドと癌の関連性を暴いていきます。

    目次
  1. フィナステリドで前立腺癌が多発?
    1. フィナステリドと前立腺癌を検証した大規模試験データ
  2. フィナステリド服用で癌の罹患率が下がる
    1. デュタステリドでも同様の傾向
  3. 悪性度高い前立腺癌が見つけやすくなった可能性
  4. フィナステリドで男性が乳癌に?
    1. フィナステリドで乳癌リスクが高まるとされる理由
    2. フィナステリドによる乳癌リスク
  5. AGA治療薬でのがん発症リスクはほとんどない
  6. 育毛剤販売に繋げるサイトに要注意
  7. フィナステリドによる癌リスクのまとめ

フィナステリドで前立腺癌が多発?

フィナステリドと前立腺癌の関連性

AGA治療薬プロペシアに代表さるフィナステリドは本来、前立腺肥大症の治療薬として開発されたものだというのはご存知ですか?

前立腺肥大症の治療のためにフィナステリドを服用した患者の多くに髪の毛の発毛が確認されたことから、AGA治療薬としても使用されるようになったという経緯があります。

それもそのはず、前立腺肥大症と男性型脱毛症(AGA)は共に「ジヒドロテストステロン(DHT)」が原因。DHT生成を抑制するフィナステリドは前立腺肥大症にもAGAにも効果があるのです。

本来前立腺に作用する薬であるフィナステリド。その前立腺は男性ホルモンの影響で癌が引き起こされると考えられれているため、DHTの生成を抑制するフィナステリドと前立腺癌の研究は活発に行われています。

フィナステリドと前立腺癌を検証した大規模試験データ

フィナステリドと前立腺癌の関連について調べた試験で最も大規模なのは2003年に報告されたもの。18,882名の男性に対し7年間もの長期にわたって調査した試験になります。

試験方法は、18,882名を2群に分け、片方にはプラセボ(偽薬)を、もう片方にはフィナステリド5mgを毎日投与し経過を観察するというもの。

この試験結果の中で最も気になるのは、悪性度の高い癌の罹患率がプラセボを使用した群で5.1%だったのに対し、フィナステリド投与群では6.4%と多くなった点

悪性度が高い…つまり死亡率が高いであろう前立腺癌の罹患率がフィナステリド群で高い数字が出たことから、アメリカやカナダではフィナステリドの使用により悪性度の高い前立腺癌が誘発される恐れがあると注意を呼び掛けています。

また、多くの育毛サイトなどがフィナステリドを批判する口実のひとつにも。

フィナステリド服用で癌の罹患率が下がる

この「悪性度が高い前立腺癌の発生が増える」という点ばかりがクローズアップされがちなフィナステリドと前立腺癌の関係。しかしこの大規模試験ではメリットも見出されています。

それは前立腺癌自体の罹患率はフィナステリド群で有意に低いという点。

一瞬「えっ?どういうこと?」と感じるかもしれません。悪性度の高い前立腺癌の罹患率に関してはプラセボ群5.1%に対しフィナステリド群は6.4%でしたが、軽度な前立腺癌も含め全体の罹患率を見るとプラセボ群が24.4%だったのに対しフィナステリド群は18.4%と大きく下回っています。

そう、フィナステリド投与で前立腺癌の罹患率を24.8%減少させたことに。

つまり、フィナステリド5mgを服用することで軽度な前立腺癌の発生を抑える一方で、悪性度の高い癌は多くなる傾向にあるという結果に。

デュタステリドでも同様の傾向

実はこの傾向、2010年に発表されたデュタステリドの研究でも示されています。デュタステリドといえば2015年に正式認可されたザガーロに代表されるAGA治療薬ですよね。

フィナステリドが2型5αリダクターゼ(5α還元酵素)阻害作用のみ、デュタステリドが1型2型の5αリダクターゼに阻害作用を示すという違いはあるものの、どちらも同様の作用であることに違いはありません。

8,122人の男性をデュタステリド投与群とプラセボ投与群に分け4年間経過観察した結果、デュタステリド投与群で22.8%の前立腺癌罹患率減少効果を認めています。

この22.8%減という数字、フィナステリドの24.8%減ともほぼ一致するため、信頼性が高い数字と考えられます。

一方で悪性度の高い前立腺癌の罹患率はデュタステリド群が6.7%、プラセボ群が6.8%と差を認めませんでした。しかしさらに高い悪性度で見ると、プラセボ群の0.6%に対しデュタステリド群は0.9%。有意差とは言えないが僅かながら多くなっているのです。

ちなみに、フィナステリドの場合、より悪性度が高い前立腺癌の罹患率はプラセボ1.1%に対しフィナステリド1.8%。フィナステリドもデュタステリドも割合的に近い数字となっているため、一定の信頼性があると見られています。

これらの結果により、フィナステリドやデュタステリドなどの5α還元酵素阻害薬を服用することで悪性度が高い前立腺癌のリスクが上昇するとされているのです。

しかし、前立腺肥大症や前立腺癌の原因となるDHTを抑制することでなぜ悪性度の高い癌が増える傾向にあるのか?それについていくつかの仮説が立てられています。しかしハッキリとした理由は分からないのが実情。

悪性度高い前立腺癌が見つけやすくなる可能性

フィナステリドで悪性度の高い癌発見?

前立腺癌自体の発生は有意に抑制するのに、悪性度が高い癌に関しては増える傾向にある…ちょっと不思議なフィナステリドの作用に対してこんな見方もあります。

フィナステリドのお陰で悪性度の高い癌の検出率が上がっているのだ、と。これはコロラド大学保健科学センターやテキサス大学保健科学センターの博士らが発表した研究結果。

両氏はフィナステリドやデュタステリドを服用した群に悪性度の高い前立腺癌が増えたことに対し、フィナステリドの作用により悪性度の高い癌の発見が容易になったためとの見解を示しています。

その根拠の一つとして挙げられているのが、フィナステリドの作用により前立腺が縮小する点。同薬は前立腺肥大症の治療薬なので、これを服用すれば前立腺が縮小するのは当たり前ですよね。

そして、前立腺が小さくなることで生体検査(生検)の感度が上昇することが示されています。

同大学が行った試験では、悪性度が高い癌が認められたケースのうち、生検時ですでに検出に成功したのはフィナステリド群69.7%に対しプラセボ群は50.5%。。

これだけ聞くと「フィナステリドが悪性度の高い癌を増やしたからだろ」と感じてしまうでしょう。しかしこれには続きがあります。

前立腺摘出術を受けた人のうち悪性度の高い癌が占める割合は、生検時にフィナステリド42.7%、プラセボ25.4%だったのに対し、前立腺摘出術時にはフィナステリド46.4%、プラセボ38.6%とその差は大きく縮小しています。

つまりフィナステリドはより早い段階で悪性度の高い癌を発見していることに。

これはフィナステリドによる軽度またやリスクの低い前立腺癌の治療・予防効果により、悪性度の高い癌の検出が容易になったという考え方です。また、前立腺を縮小させたことで生検時に癌に接触しやすくなったという見方も。

この研究は「フィナステリドが悪性度の高い前立腺癌を誘発する懸念を完全に払拭したわけではない」と前置きしたうえで、フィナステリドが低リスク癌を減らし、かつ高リスクの癌の検出精度を上げている可能性が示されているのです。

フィナステリドで男性が乳癌に?

フィナステリドで乳癌?

フィナステリドは本来前立腺肥大症の治療薬ということもあって、前立腺癌ばかりに目が行きがちですが、同薬の服用によって懸念される癌には男性乳癌も挙げられます。

「男なのに乳癌って…」と感じるかもしれません。確かに乳癌に罹る人のほとんどは女性であり、男性の割合は全体の1%未満です。とはいえ、少数ながら乳癌になってしまう男性は確実に存在するのです。

そしてフィナステリドは男性乳癌のリスクを高める可能性が取りざたされている…なぜこんなことが起きるのか?

フィナステリドで乳癌リスクが高まるとされる理由

前立腺肥大症やAGAを治療するフィナステリドの作用は、男性ホルモンであるテストステロンと、5αリダクターゼ(5α還元酵素)が結びついて作り出されるジヒドロテストステロン(DHT)の生成を抑制するというもの。

このDHTは男性ホルモンの中でも特に作用が強く、子供の生殖器の成長や私たちの性欲など様々な面に影響を与えています。ゆえにこのDHTの生成を抑制するフィナステリドを飲むと性欲減退や勃起障害の副作用リスクがあるのです。

また、フィナステリドの副作用の中には稀な例として女性化乳房など乳房に関するものが存在します。男なのに…です。

その理由は、強力な男性ホルモンであるDHTを大幅に減少させることで女性ホルモンが相対的に増えるからとされます。男性であっても少量の女性ホルモンを保有しており、男性ホルモンが減ると女性ホルモンの力が強まるというわけ。

乳癌は女性ホルモンが大きく影響しているとされ、相対的に女性ホルモンを優位にさせる働きを持つフィナステリドに対しては乳癌を誘発させるリスクがあるのではないかと考えられているのです。

フィナステリドによる乳癌リスク

日本で販売されるAGA治療薬であるプロペシアの添付文書では乳癌について言及されており、大規模な臨床試験の結果を3例挙げています。ちなみにすべてプラセボとフィナステリド5mgの比較。

被験者数、期間 プラセボ フィナステリド
3,047例 4~6年間 0例 4例
3,040例 4年間 2例 0例
18,882例 7年間 1例 1例

非常に微妙な結果になっています。トータルの数だけで見ればフィナステリドの方が乳癌発症率が多いものの、3,040名を対象にした例ではプラセボのみに乳癌が発生している。

18,882人を対象にした大規模調査においても乳癌の罹患率は変わらなかったため、フィナステリド投与と乳癌の因果関係は不明と結論付けられています。

ただし、イギリスの報告ではフィナステリド5mgを服用する人はそうでない人に比べ乳癌の発症率が高いというものも。

とはいえそれは5mgでの話。プロペシアやフィンペシアに代表されるフィナステリド1mgでの乳癌発症が少ないことも確認されているため、1日1mgが上限のAGA治療薬であれば乳癌リスクはほとんどないと言っていいでしょう。

AGA治療薬でのがん発症リスクはほとんどない

フィナステリドやデュタステリドといった5α還元酵素阻害薬を服用することによる癌のリスクについては活発に研究が行われており、低リスクの前立腺癌を減少させる一方、悪性度の高い癌が増える傾向が示されています。

しかし、悪性度が高い癌が増える理由について、単純にフィナステリドが発生の原因になっているという考えもあれば、同薬の低リスク癌予防効果や前立腺を縮小させる作用により悪性度の高い癌を発見しやすくしているという考えも。

結局はいまだ結論に達していないことになります。ただ、現段階で悪性度が高い前立腺癌を誘発させる可能性を排除することができないのも確か。

乳癌にしても同様で、フィナステリドを使用することによって発症率が上がっているというデータは存在するものの、そうでないものも存在する。明確な答えは出ていないため「因果関係は不明」と言わざるを得ない状況なのです。

ただ忘れないでほしいのは、これらの研究はすべてフィナステリド5mgで行われているという点。この5mgという容量は前立腺肥大症の治療薬に用いられるもので、AGA治療薬の1日の上限量は1mgです。

乳癌の発症を検証したものでも1mgに関しては発症例が少なく、前立腺癌に関しても1mgは完全に対象外。

試験に用いられた5mgの5分の1の量であること、5mgですら明確な答えが出せずにいる状況から、私たちが使用するであろうフィナステリド1mgの癌リスクは相当低いと考えられます。

育毛剤販売に繋げるサイトに要注意

発癌リスクがないと育毛剤を売るサイトに注意

フィナステリドは多くの臨床試験によって効果や副作用が洗い出され、癌のリスクに関しても十分な研究が行われているため、医師の間では「安全性の高い薬」という位置付けになっています。

しかし、ネット上にはフィナステリドの副作用や癌リスクを過剰に煽り立てるサイトが異常なほど大発生しています。フィナステリドと検索して上位に出てくるサイトのほとんどはこれにあたるでしょう。

フィナステリドの安全性や効果に関して、様々な意見や考え方があるのは自然なことです。好意的に見る人間もいれば、批判的な意見を述べる人もいるでしょう。

それはニュートラルな視点からの考え方の相違であれば問題ありません。

しかし、フィナステリドの副作用や癌リスクを叩く多くのサイトは最終的に育毛剤を勧めてきます。大体がチャップアップやフィンジアあたりでしょう。

これら育毛剤は自サイトのリンク経由で売れると15,000~20,000円ほどの高額なアフィリエイト報酬が受け取れる商品。だからこそ多くの育毛関連サイトがこぞっておすすめしている現状があります。

そう、育毛サイトの多くは自分なりの考え方や価値観によってフィナステリドのリスクを論じているのではなく、ただ単に育毛剤を売りたいがためにフィナステリドのリスクを過剰に煽っているのです。

チャップアップやイクオス、フィンジア、ポリピュアEXといった医薬部外品の育毛剤や化粧品にAGAを改善させる力は一切ありません。またこういった商品は医薬品と違いリスクや副作用を検証する臨床試験を行わないため、未知のリスクが潜んでいる可能性も。

育毛剤を使うのか、フィナステリドやデュタステリドといった発毛剤を使うのかは各々の判断にお任せしますが、育毛剤を売るために発毛剤の癌リスクなどを過剰に書きたてるサイトの情報は鵜呑みにしないようにしてください。

フィナステリドの副作用などを軽くディスりながら、「副作用のない育毛剤はこれ!」という流れでチャップアップなどを勧めてくるサイトは一切信じないように。

フィナステリドによる癌リスクのまとめ

発毛剤であるフィナステリドを使っている、もしくは使用を検討している人にとって無視できない問題…それが癌のリスクですよね。

現時点で分かっているフィナステリドと癌の関連性をおさらいしておくと…

  • フィナステリドは前立腺癌全体の罹患利率を24.8%減少させる
  • 悪性度の高い前立腺癌罹患率はフィナステリド6.4%、プラセボ5.1%
  • フィナステリドが悪性度の高い前立腺癌を誘発している可能性がある
  • フィナステリドの作用で悪性度の高い前立腺癌が発見しやすくなる可能性
  • フィナステリドと乳癌の因果関係は不明
  • 臨床試験はすべてフィナステリド5mgで行われている。AGA治療薬である1mgであれば癌リスクが減ることが示唆されている

フィナステリドの使用によって前立腺癌や乳癌の発症率が増える可能性がある点については否定できません。実際、その傾向を示すデータが出てきていますからね。

しかし「薬」というのは大なり小なり副作用はあるもの。効き目がマイルドなイメージがある漢方薬ですら副作用は存在します。

ハッキリ言ってしまうと「ハゲ」というのは生命に何ら悪影響を与えません。それでも医薬品であるフィナステリドを使ってまでAGAを改善させようというのですから、多少のリスクは仕方ないのかなという気も。

高い発毛効果があり、かつ副作用はないなんて都合の良いものは存在しません。実際フィナステリドには性欲減退や勃起障害といった副作用の発現率が5%ほど存在します。

しかし、フィナステリド1mgの発癌リスクに関しては心配するレベルにありません。ゼロとは言い切れないが、タバコや酒に比べれば遥かに安全と言えるでしょう。

少なくとも私はフィナステリドと癌の関係性を知ったからといって使用を中止しようとは考えていません。フィナステリドの限定的なリスクより薄毛でいることの損失の方がはるかに大きいからです。

とはいえ、健康面を最優先する人にフィナステリドやデュタステリドをおすすめするつもりもありません。副作用やガンのリスクと薄毛…これらを天秤にかけ使用するかどうかを今一度考えてみてください。

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