男性型脱毛症診療ガイドライン2017年版とは?

男性型脱毛症診療ガイドライン2017年版

日本皮膚科学会がエビデンス(科学的・医学的根拠)に基づき、男性型脱毛症(AGA)や女性型脱毛症に効果的な成分や治療法の推奨度を判断し公表してる「男性型脱毛症診療ガイドライン」をご存知でしょうか?

以前は2010年版のものしか存在しなかったため、多くの成分が開発・登場している現状において若干の時代遅れ感がありましたが、2017年版の登場によりそういった懸念はある程度払拭されました。

ただ、2017年に新たなガイドラインを策定するという話はかなり前から聞いていたものの、結局年末にまでずれ込んだ男性型脱毛症および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版。個人的な見解を交えつつ詳細に触れていきます。

男性型脱毛症診療ガイドラインの信頼性

まず、気になる点として挙げられるのは、内容もさることながら「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」が信頼に足る存在ないのかどうかなのではないでしょうか。

薄毛は人生を大きく左右する繊細な問題だけに強いコンプレックスに発展しがち。そのため、しっかりとした科学的根拠に基づいた治療がある一方で、明らかにお金儲け優先の胡散臭い商品が星の数ほど存在するのも確か。

そう、薄毛関連商品は玉石混交なのです。

そういった業界において2017年版の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」は信頼に足るのかどうか…大きな問題ですよね。

結論から書けば「信頼性は極めて高い」といえます。

日本皮膚科学会の信頼性

男性型および女性型診療ガイドラインを策定しているのは「日本皮膚科学会」という団体。つまりこの団体の信頼性=ガイドラインの信頼性という図式が成り立ちます。

日本皮膚科学会は1900年に設立された公益社団法人で、皮膚科専門医の養成や医学生・研修医の育成、各種公演、皮膚科が受け持つ疾病に対するガイドラインの策定などを行っている、日本最大の皮膚科団体。

会員は医師を中心に約12,500名で、役員には医療大学の教授や大学病院の皮膚科医師などが名を連ね、2017年版の男性型および女性型診療ガイドラインは秋田大学や東京医科大学の専門家・皮膚科医師など17名が作成に携わっています。

ガイドライン策定にあたって多くの文献や論文が収集され、エビデンス(科学的根拠)に基づき客観的な評価がなされており、どこの皮膚科でも基本的に男性型脱毛症(AGA)の治療はこのガイドラインに沿って行われることになります。

一般診療所の皮膚科は全国に13,000~14,000件あるとされ、皮膚科専門医は約9,000人存在。それに対し日本皮膚科学会の会員数が約12,500名という点を鑑みれば、その影響力の大きさが見えてくるのではないでしょうか。

日本皮膚科学会のホームページで全国の皮膚科を検索すると、約7,000名の皮膚科専門医が紹介されているため、この数が日本皮膚科学会の所属し皮膚科専門医の認定を受けた医師ということになるのでしょう。

全国の皮膚科医師の大半が所属する団体が策定するガイドライン…これが信頼できないのであれば、一体何を信用すればいいのか? というレベル。

2010年版と2017年版の比較

2010年版の「男性型脱毛症診療ガイドライン」から、「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」と名称を変更し、女性の薄毛にもスポットライトを当てた2017年版をとりあえず見てみましょう。

男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版

これを見て「あれ?あんまり変わってない?」と感じた人は鋭い。7年ぶりに刷新されたことでかなり大幅な変更が加えられると思っていたのですが、肩透かしを食らった印象。

分かりやすく2010年版と2017年版を比較してみましょう。(クリックで大きくなります)

男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版

いくつかの成分や治療法について追加や削除、そして評価に若干の変更が加えられたものの、2010年版の策定から7年も経過したことを考えると、変更は最小限に抑えられている印象を受けますよね。

2017年に新たなガイドラインを策定するという目標を守った結果、若干骨抜きになった感も否めません。年末ギリギリの発表となった背景には、採用成分や調整の難航があったのかもしれませんね。

2017年版脱毛症ガイドラインに対する個人的見解

2010年の男性型脱毛症診療ガイドラインから長い時間が経ち、その間に育毛剤市場では様々な成分が登場しています。それを考えると今回の新たなガイドラインはあまりにも変化がなさすぎる気がします。

しかしよく考えてみて下さい。

確かに育毛剤の成分はM-034やアルガス2、キャピキシル、リデンシル、ピディオキシジルなど挙げだしたらきりがないほど登場していますが、科学的根拠のある成分や治療法はほとんど出ていません。

しっかりとした根拠を元に登場した唯一の治療法である「デュタステリド」に関してはしっかりと追加されていますし、近年医師が提供する高額で胡散臭い治療法「ハーグ療法」に代表される育毛メソセラピーについても言及しています。

つまり、根拠に関しある程度議論の余地があるものについては追加され、一方で医薬部外品の育毛剤が個々に“売り”としている成分については言及していないことに。

それもそのはず、ネットを中心に人気の育毛剤であるチャップアップの「ジンゲルシックス」はただのショウガエキスですし、イクオスEXプラスの「アルガス-3」や「M-034」はコンブエキスですからね。

数十年前から化粧品や医薬部外品に広く使われてきた何の変哲もない一成分に、仰々しい名前を付けただけの成分など検証するに値しないというのは当然です。AGAに対する効果の科学的根拠も一切ありませんしね。

2010年版から大きな変化は確かにないものの、育毛業界やAGA治療を取り巻く状況を考えれば妥当と判断してもいいのではないでしょうか。

実際の男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインを見てみたい方はこちらを。

変更・追加された主な治療法

2010年版の男性型脱毛症診療ガイドラインから2017年版の男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインに刷新された際に変更・追加されたものについて簡単に説明しておきましょう。

デュタステリドの追加

2010年版のガイドライン策定時に認可されていた発毛成分はプロペシアに代表されるフィナステリドとミノキシジルのみで、評価に関しても最高のAにランクされているものはこの2つのみでした。

しかし、第3の発毛成分といえるデュタステリドが2015年に正式認可されたため、今回刷新されたガイドラインでは「行うよう強く勧める」という最高のA評価を受け新たに登場しています。

ちなみに、一般的にフィナステリドの1.5倍程度の効果があるとされるデュタステリドですが、ガイドラインの評価としては「フィナステリドに比べ全毛髪数と毛直径の増加はデュタステリドの方が優れた結果を示したが、直径60μm以上の硬毛数では有意差はなかった」としています。

複数の臨床試験の結果を見るに、フィナステリドより効果が高いのはほぼ間違いないものの、極端な差はないと見ていいのかもしれません。

アデノシンの躍進

個人的に意外だったのが、日本において資生堂のアデノバイタルやアデノゲンに配合されているアデノシンの男性に対する評価がこれまでの「C1:行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない」から「B:行うよう勧める」に上昇したこと。

なぜかというと、2010年版の段階では男女ともに1編ずつしか存在しなかった試験のデータが、2017年時点では女性へのものは1件で変わらなかった一方で、男性に対してのものは3件に増えていたため。

その3件ではすべてアデノシンの有効性を示しており、うち1件については5%のミノキシジル外用薬と同等の発毛効果が認められたとのことでB評価にランクアップしたと考えられます。

それでもB評価に留まった理由については、ミノキシジルに比べてデータが不足している点、臨床試験の規模が小さい点などが考えられます。それでも十分躍進と呼べるものだが。

これによって資生堂のアデノバイタルやアデノゲンの信頼性が増したと考えることもできるが、それ以上に高濃度ミノキシジルに加えアデノシンも配合するフォリックスシリーズに対する期待が高まった印象。

ハーグ療法に厳しい評価

近年、AGAクリニックなど高額な治療を前面に押し出した医療機関が積極的に行っている「ハーグ療法」や「育毛メソセラピー」といった、成長因子を頭皮に直接注入する治療法がハッキリと否定されたのは大きなトピックス。

その評価は「C2:行わないほうがよい」というもの。

日本皮膚科学会が同業者であるAGAクリニックに配慮・忖度してそれなりに高い評価を与えるのではないかという懸念があったが、しっかりとした公平性と良心が示された格好。

ハーグ療法を行うクリニックはエビデンス(科学的根拠)があることを主張するが、2017年の脱毛症診療ガイドラインにおいて「安全性なども含め、その有効性は決して十分に検証されているとはいえない」と斬り捨てています。

ただ、同時に「今後が期待される治療法」という文言も盛り込まれているため、もう少し研究が進めば評価も変わってくるのかもしれません。

個人的には非常に高額、かつ目立った発毛根拠がないハーグ療法は「患者優先ではなく利益優先の治療」という印象しかないありません。

薄毛に悩む男性にこの事実が少しでも届けばいいのですが…

意外だったかつらへの言及

今回のガイドラインを見てみると「かつらの着用は有用か?」という項目が追加され、C1の評価を得ています。

医学的見地からかつらを評価するというのはギャグのような印象を受けますが、その大きな理由にクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上が挙げられています。

根本的な治療にはならないが、薄毛がどうしても改善しない場合やQOLが低下している場合には、かつらを着用し生活の質を高めることを考慮してもよいという判断に。

「かつらなんて絶対に嫌だ」という男性は多いでしょうし、女性の目から見てもかつらは嫌悪の対象になりがち。しかし、薄毛に対する周囲の好奇な目に耐えかねている人にとっては救世主になりうるのも確か。

高性能なかつらは高額ながら着用すれば確実にフサフサになるのだから、同じく高額、かつエビデンスに基づいた発毛効果が望めないハーグ療法や育毛メソセラピー、育毛サロンに比べれば遥かに建設的かもしれない。

ミノキシジルタブレットが追加

ハーグ療法が否定されたことは朗報だった一方で、非常に残念だったのがミノキシジルタブレットが「D:行うべきではない」という最低評価で追加されたこと。

ご存知の方も多いと思いますが、ミノキシジルタブレットは「最強の発毛剤」として名高く、副作用のリスクがある一方で高い発毛効果があるとして、薄毛治療の最終手段という位置付けの人も多いはず。

ミノタブは一部のAGAクリニックで処方されるほか、個人輸入を用いれば非常に安価に手に入ることもあり、フィナステリド+ミノキシジルタブレットの組み合わせは「ミノフィナ」と呼ばれ、薄毛に悩む多くの人に親しまれています。

そんなミノキシジルタブレットがなぜ最低評価なのかというと、ミノキシジル外用薬は世界中で臨床試験が行われ発毛効果が認められている一方で、ミノキシジル内服薬は発毛剤としての臨床試験が実施されていないから。

そもそもミノキシジルは降圧剤としての使用時に発現した「多毛症」の副作用に着目し、それを主作用としつつ副作用のリスクを減らす目的で、頭皮に塗布する外用薬として使われるようになりました。

そのため、ミノキシジルタブレットに強力な発毛効果があるのは疑いようがないものの、発毛剤としての臨床試験が行われていないこと、発毛剤として認可している国が存在しないことが最低評価の大きな理由。

加えて、本来血圧を下げる降圧剤であるミノキシジルを服用すれば、血圧低下やむくみ、動悸、息切れなどの障害が発生する可能性があり、安全性の面においても懸念が示されいます。

言いたいことは分かる。ガイドラインに書かれていることを否定する理由もない。

だが、私たちハゲはそんなリスクを承知でミノキシジルタブレットを使っている。なぜなら、臨床試験が行われていなくても高い発毛効果があることは明白だから。そして、リスクのあるミノタブを使うこともいとわないほどハゲは辛いから。

フィナステリドやデュタステリド以上に副作用リスクが高いのは間違いないので、万人におすすめできるものではないのは確かですけどね。

2017年版ガイドラインは納得の出来

2017年末になってやっと公表された男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン。

変更や追加は予想以上に少なかったものの、それは裏を返せば信頼に値する治療法がほとんど出てこなかったことを意味しており、キャピキシルとかリデンシルといった何の根拠もない化粧品成分が追加されなくて本当に良かったと感じる。…まあ、これらを追加した上で全否定してくれるなら構わないけどね。

個人的に残念だったミノキシジルタブレットの最低評価に関しても、その理由を見れば納得できるもの。だからといってミノタブの使用を止めるようなことはしないし、これからも変わらず薄毛治療の最終手段として君臨し続けるでしょう。

今回のガイドライン刷新を受けてしみじみ感じたのは「薄毛治療にこれといった進化は見られない」という点。

前回のガイドラインが策定されてから7年間で進歩したのはデュタステリドが登場したことくらい。しかしこのデュタステリドもフィナステリドのパワーアップ版であり劇的な進化とは言えない。

薄毛治療の中心はフィナステリドorデュタステリドとミノキシジルという図式は変わらず、そこに根本治療の希望はないのは残念なところ。

これからiPS細胞などを用いた再生治療が出てくることが予想されますが、コスト面との兼ね合いを考えると行える人は限られるのではないでしょうか。

2017年版脱毛症診療ガイドライン策定から読み取れるのは薄毛治療の進歩の遅さ。私たちの世代が薄毛を根本から治療するのは無理なのかなーと感じさせるには十分な内容でもありました。

髪の毛が完全に抜け落ちる前にどうにかして欲しいというのが本音か。

男性型脱毛症診療ガイドラインの課題

日本や世界においてのAGA治療を鑑みれば、2017年に策定された男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインは十分納得のいくものでした。

取り上げている治療法・成分の数が少ない点についても、現実問題としてエビデンスがしっかりしている治療法が限られる現状においては致し方ないところでしょう。

ただし課題も。

まずはガイドライン策定のペースが遅い点。2010年版ガイドライン策定から7年経って、やっと2017年版ガイドラインが登場。その後すでに4~5年経った現在において、新しいガイドラインの話は全く聞こえてきません。

デュタステリドの登場から目立った治療法が出てきていないことから、このペースの遅さは仕方ない面はあるものの、世界中で日々様々な試験が行われていることから、それを反映したガイドラインをもう少し早いペースで世に出してほしいといのが本音。

また、ミノキシジルタブレットに対する注意喚起と同様に、市販されている育毛剤への警鐘も鳴らしてほしいと感じます。「育毛剤ではAGAは治らないんだよ」と。

男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインは医療関係者に向けたものなので、本来一般の人の目には触れないものですし、育毛剤を取り上げることでメーカーからの反発が予想されるという背景もあるのかもしれません。

ただ、ガイドラインに育毛剤の無意味さを明記し、全国の皮膚科専門医が育毛剤に対する注意喚起を積極的に行えば、育毛剤で時間とお金を無駄にし、取り返しがつかない状況まで薄毛が進行してしまう事態を減らせるのではないかと。

まあ…一口に「育毛剤」といっても、商品の数は膨大で、かつ配合されている成分も個々に異なるため、それをひとまとめにして否定するのは難しいのでしょうけどね。

一人でも多くの人が男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインに沿った治療を行えるよう、日本皮膚科学会にはもう少し積極的に動いてほしいと感じます。

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