育毛剤は浸透しない?頭皮吸収のウソホント
育毛剤や外用の発毛剤は浸透しなければ意味がない…こんなことは誰しもが分かっている事だと思います。しかし頭皮に塗布する育毛剤はほとんど効果がないことから「本当に浸透してるの?」という疑問も。
近年はナノ化など浸透力を売りにする育毛剤が増えてきたものの、そういった育毛剤で髪が生えたという話は金目的の育毛サイトでしか見かけないというのが実情。そもそも成分的に発毛するはずもないのだが。
ただ、ミノキシジルを用いた外用薬に発毛効果があることは世界中に存在する臨床データからも明らかで、必ずしも浸透しないというわけでもなさそう。
育毛剤や外用の発毛剤はどの程度頭皮に浸透するのか?また浸透を妨げるものはなんなのかなど、詳しく検証していきます。
薬機法による日本の育毛剤の限界
育毛剤や外用薬の発毛剤がどこまで浸透するか検証する前に、まず触れておかなければならない点があります。それは日本の薬機法(旧薬事法)について。
日本の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)では、化粧品や医薬部外品は角質層までの浸透しか謳うことができません。
ちなみに角質層とはこれな。
頭皮や肌というのは上から表皮、真皮、皮下組織で構成され、右図を見てもらうと分かるように基底層までが表皮、その下に真皮、そして毛根があるのは真皮の下の皮下組織ということになります。
この図では表皮と真皮の厚さがほぼ一緒になっていますが、実際は表皮100μmに対し真皮は2,000~3,000μmとかなり深い。
そして角質層は表皮のごく表面…厚さは平均して0.02mmしかありません。
「ここまでしか浸透しないんなら効くはずないだろっ!」
ごもっとも。しかし薬機法ではここまでの表現しか許されていないのです。仮に角質層含め表皮を突き抜けて真皮にまで到達するほどの浸透力があったとしても。
だから高い浸透力を謳う育毛剤は必ず端に「※角質層まで」と書いているはず。
一方、ミノキシジルを用いたリアップといった医薬品の場合、角質層までという表現を用いる必要はありません。血管のない角質層までしか浸透しない外用薬など役に立たないからです。そのかわり厳しい臨床試験を経て効果から副作用までしっかりと明らかにする必要がありますけどね。
浸透しようがしまいが発毛効果は一切ない育毛剤を擁護するつもりはさらさらないが、フェアな視点で見てもらうため化粧品や医薬部外品は薬機法によって表現が制限されていることを知っておいてください。
角質層を通過するのは事実上不可能か
薬機法で表現を制限されているとはいえそれは表面上の話であって、ナノ化などで成分を小さくしている育毛剤はある程度浸透するのではないか?そう感じる人も多いと思います。
ここで頭皮や肌について少しお話ししましょう。
角質層というのは頭皮を守るバリア層の役割を担っており、たった0.02mmながら幾重にも層を形成し極めて優秀な働きをしています。
この角質層を突破するにあたって特に重要な点は以下の2つ。
- 分子量500以下
- 適度な脂溶性がある
これだけでは分かりにくいので、もう少し詳しく見てみましょう。
頭皮への浸透は分子量500以下が望ましい
医学的な見地から外用剤は分子量が500以下になると経皮吸収されやすいことが分かっています。つまり極めて小さい分子量であれば角質層を突破できると。もちろんこれは健康な皮膚でのケースで、皮膚炎などで荒れている場合はもう少し大きな分子量でも吸収されやすくなります。
分子量500といわれてもピンとこないと思いますので、化粧品の保湿剤としてよく用いられるものを例にとると、コラーゲンが約30万、ヒアルロン酸が100万前後。これらを皮膚に浸透させようというのは鼻の穴にバスケットボールを突っ込むより難しいことでしょう。
そのためコラーゲンを細分化し分子量を減らすことで体の内外からの吸収を高めようとしたものが「コラーゲンペプチド」といわれるもの。それでも分子量は3000~5000程度が限界。500以下にまで切り刻んだらただのアミノ酸になってしまいますからね。
一方、医療機関で処方される外用薬はワセリンなどベースになる基材に薬の成分である主薬を配合しており、この主薬は基本的に分子量500以下になっています。
ナノレベルでも浸透しない
では、近年多くの育毛剤が謳う「ナノ化」はどうなのか?「ナノ化」と聞けば頭皮にガンガン浸透しそうなイメージを抱いてしまいますよね。
イギリスのバース大学による面白い研究結果があります。
蛍光を持たせた20~200nmのポリスチレンナノ粒子を水に懸濁させて皮膚に接触させると、ナノ粒子は剥離層のみを通過し、角質層という皮膚の表面層は通過しないことが分った。通過量は16時間までの接触時間やナノ粒子の大きさに依存しない。皮膚を傷つけても15~20μmの皮膚層表面にある2~3μmの層にしみ込むだけであるという。つまり、多少の傷はあってもナノ粒子は表皮を越えて真皮の細胞には到達しない。
どうでしょう?20~200nm(ナノメートル)という極めて小さいものですら角質層を突破できなかったという、人体のバリア機能のすごさを実証した実験。
これにより育毛剤の成分をナノ化したところで角質層を突破できるわけではないことが分かっていただけたと思います。
また、この実験をおこなった教授は「疑問を持たない消費者はナノ粒子がスキンクリームの有効成分を皮膚の奥まで運ぶと考えていたかも知れないが、我々の結果はそれを否定した」と語っています。
ナノ化したからといって浸透するわけではなく、角質層の下にまで成分を届けるには分子量500以下が必要であることは間違いないものの、それだけでは不十分。ここに脂溶性が絡んできます。
適度な脂溶性が必要
ナノ化したポリスチレンを用いた実験で角質層を突破できなかった理由として「脂溶性ではなかった」という点も考慮する必要があります。
角質層は脂溶性が高いため水溶性のものは弾いてしまいますし、ポリスチレンであればなおさらでしょう。入浴した後でも肌がぶよぶよにならないのは角質層が水をブロックしているから。
つまり育毛剤の成分が角質層を突破するには脂溶性であることが重要になります。
「育毛剤にはエタノールやアルコールが使われているから脂溶性の角質にも浸透するのでは?」と考える人もいるでしょう。確かにそれは間違っていません。
エタノールやアルコールは皮膚や頭皮のバリア層を壊す働きがあるので、浸透しやすくなるのは確か。本来皮膚を守るバリア層を破壊することが良いか悪いかは各々の価値観に任せる。
少し話が逸れたので戻します。育毛剤の成分が角質層から浸透するには分子量が500以下で、なおかつ脂溶性である必要があります。しかし当然そこまで触れられていませんよね。
しかもやっかいなのが、脂溶性が強ければ良いってものでもない点。
脂溶性はあくまでも適度が重要
仮に脂溶性の高い育毛剤の成分が角質層を突破したとします。しかし角質層より下は脂溶性が低いという特徴があるため、成分の脂溶性が高すぎると角質層に成分が留まってしまいます。
ゆえに「適度な脂溶性」が求められるわけです。
分子量500以下で、なおかつ適度な脂溶性…育毛剤の成分がこれをどこまでクリアしているのかという疑問は尽きない。ナノ化しようなんだろうが成分の分子量まで明らかにしている育毛剤は存在しないですからね。
ちなみにミノキシジルの分子量は209。医薬品とあってそのへんはしっかりと公表されています。効果が実証されていることを考えても単体もしくは基材の影響によりある程度の浸透は期待できる。
毛穴からの浸透はどこまで?
ここまで触れてきたように育毛剤が頭皮から吸収されると考えるべきではないことは明らか。
しかしちょっと待って、「角質層は突破できなくても毛穴から吸収されるんじゃないの?」と思いますよね。実際それを売りにした育毛剤は数多く存在します。フィンジアのゲートアクセス理論(笑)とか。
実際、分子量500以下しか浸透しない角質層に比べ毛穴は分子量や脂溶性などに影響されにくいと薬学的にも考えられています。
しかし、毛穴の面積は角質層の面積に比べ極めて小さいため、外用薬は角質層から吸収され効果を発揮しているというのが一般的な見方。世界的に見ても外用の発毛剤として認められているは分子量の小さいミノキシジルのみという観点からも頷ける。
育毛剤の中には直接毛根に成分を届けるようなことを書いているものもあるが、毛穴は皮脂で満たされている上に毛根は真皮の下の皮下組織に存在するため、ここに直接成分が届くことは考えられない。
ましてや揮発性の高いエタノールを使っているというのに、角質層含めた表皮の20~30倍の深さがある真皮を通過し毛根まで届くというのか?軟膏のように皮膚に長時間残る基材を使っているものであるならまだしも。
考えられるのは毛穴から入り真皮にまで到達した成分が血液に乗り効果を発揮する可能性ですが、それだと先ほど書いたように薬学的に極めて面積が小さい毛穴からの効果はほとんど期待できないことになる。
考えれば考えるほど矛盾に満ちているな。
育毛剤が短時間で消えるのは演出
軟膏やクリームなどと違い育毛剤は塗布しても短時間で消え失せますよね。ここまで読んできた方は薄々気付いていると思いますが、浸透しているわけではなく揮発しているんです。
肌に塗る化粧品でもたびたび取り上げられるように、塗布したものがスーッと消えていくと「ああ、染み込んでいる」と感じますよね。でもあれは蒸発しているだけで浸透はしていません。
育毛剤も同様で、塗ったものが速やかに無くなっていくのは蒸発しているだけなんです。エタノールやアルコールによって。
様々な成分を配合するという商品の性質上、また頭皮に長く留めておくとベタベタして使用感に問題が出るという都合上エタノールやアルコールを使わざるを得ないという背景もあるでしょうが。
短時間で揮発することを考えても毛穴からしっかりと吸収されることは考えにくく、だからといって角質層から浸透するかどうかは極めて怪しい。このへんが医薬品と医薬部外品や化粧品の大きな違いか。
育毛剤は浸透するのか?のまとめ
育毛剤や外用の発毛剤が効果を発揮するには面積が極めて小さい毛穴からではなく、角質層からの浸透が重要になります。
しかし医薬部外品の育毛剤や、キャピキシルローションに代表される化粧品は薬機法の制限により「角質層まで」という表記しか行えず、実際にどこまで浸透するのかは未知数と言わざるを得ません。
そもそも育毛剤は「ナノ化」や「毛根に届ける」といった聞こえの良い上っ面な表現を使っているものの、そこにどういった根拠や効果への寄与、メカニズムがあるのかまで踏み込んでおらず無責任極まりない。
ナノ化したからといって浸透するわけではないのは件のポリスチレンナノ粒子の実験で明らかになっていますし、成分の分子量も公表しない。まあ成分の含有量すら自信を持って明示できないものばかりなのだから当然だろうが。
個人的には「角質層まで」という表現は制限ではなく、むしろ浸透力の根拠を示さなくていい都合のよい文言のようにも感じています。
もちろん「絶対に浸透しない」とまでは言い切れませんけどね。
忘れないで欲しいのは、成分が浸透しようがしまいがそもそも育毛剤は髪の毛を生やすためのものではなく、抜け毛を予防したり頭皮環境を改善したりといった目的のものという点。
仮に頭皮にガッツリ浸透し顎まで達したとしても発毛は一切しないということ。
育毛剤は浸透しようがしまいが男性型脱毛症(AGA)にまったく効果がないのだが、それを言うと頑張って書いてきたこの記事も無意味になってしまうジレンマが。
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